ミャンマー人材が日本に来られない!「特定技能」を直撃する深刻な政情不安を徹底解説

市場で本を手にするミャンマー人の男子学生

ミャンマーは、日本が特定技能や技能実習制度を通じて受け入れる外国人材の主要な送り出し国の一つであり、特に介護、建設、農業などの分野で重要な担い手となっています。しかし、現在、現地情勢が不安定化していることで、日本企業は深刻な人材不足に直面しています。

なぜ、優秀なミャンマー人材が日本に来られなくなってしまったのでしょうか?その背景にあるミャンマーの複雑な政治状況と、それが日本の外国人雇用に与える影響について、簡潔に解説します。


日本への送り出しが滞っている直接的な理由

最も直接的な原因は、ミャンマー軍事政権による若者の「出国制限」です。

軍事政権による制限の背景

2021年2月のクーデター以降、軍事政権(SAC:国家統治評議会)は自国での統制を強化しています。2024年に入り、軍事政権は「徴兵制」を施行しました。

  • 徴兵制の施行: 全ての男性(18~35歳)と女性(18~27歳)を対象に、最低2年間の兵役を義務付けました。
  • 若者の国外流出阻止: この徴兵を逃れようとする若者の国外流出を食い止めるため、軍事政権は海外で働くための許可証(OGP:Overseas Employment Permit)の発給を事実上厳しく制限しています。特に若年層の労働者の出国が極端に困難になっています。

日本で就職が決まっている特定技能や技能実習生であっても、この出国許可が得られなければ日本に来ることができません。これが、日本企業が待望する人材が現地で足止めされている最大の理由です。

ミャンマー政治の「ここがわからない」を解消

「クーデター」「軍と民主派」といった言葉は聞くものの、ミャンマーの政治がどうなっているのか、日本人には分かりにくいのが実情です。現在の状況を理解するための重要ポイントは以下の3つです。

クーデターと「二つの政府」の存在

ミャンマーは現在、事実上二つの勢力が対立している状態です。

勢力 正式名称 実態 主な行動
軍事政権 国家統治評議会(SAC) 国の大部分を実効支配する勢力。現在の出国制限を課している主体。 クーデターで政権を奪取。行政・治安維持(を名目とする統制)を行う。
民主派勢力 国民統一政府(NUG) クーデターで倒された民主的な国会議員らが組織した勢力。 国外や一部の地域で活動。軍事政権の支配に対抗する。

要点: 日本は現地の混乱を避けるため、軍事政権(SAC)を国家の代表として「承認」はしていませんが、外交や実務上は接触せざるを得ない状況にあります。一方、民主派(NUG)は日本国内にも支持基盤を持ちます。

少数民族武装勢力の動向

ミャンマーでは、多数派ビルマ族と異なる「少数民族」が、長年、独自の自治権を求めて武装勢力(EAO)として活動してきました。

クーデター後、これらの武装勢力の多くが、軍事政権(SAC)と敵対する民主派勢力(NUG)と連携を強化し、軍事政権に対抗する攻勢を強めています。

要点: 現在、ミャンマーの国土の多くで、軍事政権と民主派・少数民族の連合軍との間で戦闘が発生しており、政情不安は「内戦状態」に近いレベルまで深刻化しています。

経済活動への影響

情勢不安は経済にも深刻な影響を与えています。

  • 通貨(チャット)の価値下落
  • 物流の停滞とインフレ
  • 送金や銀行取引の不安定化

これらの要因により、日本で働く技能実習生・特定技能労働者が、日本で稼いだお金を本国の家族に安全に送金することも難しくなるなど、労働環境の安定にも悪影響が出ています。

日本企業が取るべき対応

外国人雇用に関わる企業として、ミャンマー情勢が改善するまで待つだけでは人材確保はできません。

情報収集と他の送り出し国の検討

  • ミャンマーの出国制限の動向は日々変化します。信頼できる現地機関や専門家からの情報収集が不可欠です。
  • ミャンマーに依存せず、ベトナム、インドネシア、フィリピンなど、他の特定技能・技能実習の送り出し国の採用ルートを強化・分散させる必要があります。

在日ミャンマー人への配慮

現在すでに日本にいる特定技能・技能実習生は、本国に帰国した場合、徴兵されるリスクや政情不安で生活が困難になるリスクを抱えています。

  • 企業は、本人の希望に応じて在留資格の延長や特定技能への移行を積極的に支援し、「日本に留まる選択肢」をサポートすることが、人材の安定確保と人道的な配慮の両面から重要になります。

ミャンマー情勢は複雑ですが、本質は「軍事政権による統制強化」と「それに対抗する民主化勢力との武力衝突」です。この政治的混乱が、日本の重要な人的資源の供給を止めていることを理解し、多角的な対策を講じることが急務です。