少子高齢化が進む日本において、労働力不足は深刻な問題となっています。特に、国民生活を支える物流を担う運送業界では、約10万人の人手不足が慢性化しており(出典:国土交通省 物流を取り巻く動向と物流施策の現状・課題)、その解決策の一つとして、2019年4月から「特定技能」制度が導入され、外国人材の受け入れが始まりました。
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外国人ドライバーが直面する「免許の壁」
この特定技能制度により、これまで原則として認められてこなかった外国人による国内での運転業務が可能になったわけですが、実際に制度が動き出すと、大きな「壁」が立ちはだかっています。それが、外国免許から日本免許への切り替えの難しさです。
多くの特定技能外国人ドライバーは、母国で運転免許を取得していますが、日本の道路交通法に基づいた運転免許に切り替えるためには、一定の手続きと試験をクリアする必要があります。この切り替え手続きは、日本の交通ルールや道路標識に関する知識が問われる学科試験と、日本の道路環境での運転技能を評価する技能試験から構成されています。母国の運転免許を取得していても、日本の交通ルールや運転習慣は異なるため、スムーズな切り替えには相応の準備と学習が必要となります。実際に、外国免許からの切り替え試験の合格率は、全体で約30%程度にとどまっているというデータもあります(参考:警察庁 運転免許に関する統計)。
時間的制約と都心部の混雑が生む新たな課題
さらに、制度開始から間もないため、特定活動期間6ヶ月以内という在留資格の制約が、免許取得を急ぐ外国人にとって大きな負担となっているという指摘もあります。特定活動の在留資格は、就労を目的とせず、特定の活動を行う場合に認められるものであり、在留期間が比較的短い場合があります。この期間内に免許の切り替えを完了し、就労を開始する必要があるため、時間的な制約が大きな課題となっています。
加えて、都心部においては、外免切替の試験を受けるまでに3~4ヶ月待ちという事態も発生しており、これは外国人ドライバーにとって大きな時間的、経済的負担となっています。
少子化に喘ぐ教習所の「チャンス」とは
しかし、この「免許の壁」こそが、日本の教習所にとって大きな「チャンス」となり得るのです。少子化が進み、教習所の経営が厳しさを増す中で、この新たな需要に応えることで、活路を見出す可能性が大いにあります。
日本の教習所を取り巻く環境は厳しく、18歳人口は年々減少し続けており、2023年には約112万人であったものが、2030年には約98万人まで減少すると予測されています(出典:総務省 人口推計)。これにより、教習所の主要な顧客層である若年層の利用者が減少し、多くの教習所が経営難に直面しています。
なぜ外国人向け免許切り替えはビジネスチャンスなのか?
需要の増加: 特定技能外国人ドライバーの受け入れは、政府の目標として今後5年間で数万人規模に拡大される見込みです(参考:自動車運送業分野における特定技能外国人の受入れについて)。それに伴い、日本免許への切り替えを希望する外国人は確実に増加します。
専門性のニーズ: 外国人特有のニーズや、母国の運転環境の違いなどを理解し、きめ細やかな指導を提供できる教習所は、他の教習所との差別化を図り、新たな顧客層からの支持を得る可能性が高まります。
新たな顧客層の開拓: これまでターゲットとしていなかった外国人という新たな顧客層を開拓することで、教習所の収益基盤を強化するだけでなく、既存の教習生数の減少を補う可能性も秘めています。
社会貢献性: 外国人ドライバーがスムーズに日本で運転免許を取得できるよう支援することは、日本の物流を支える上で不可欠な人材確保に貢献することになり、社会貢献にも繋がります。
地方の教習所が「チャンス」を掴む具体的な戦略
特に、都心部における試験の混雑状況を考慮すると、比較的混雑が少ない地方の教習所こそが、特定技能外国人向けの免許切り替え支援において大きなポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。
地方の教習所が取り組むべき具体的な戦略としては、以下のようなものが考えられます。
- 特定技能外国人向けコースの開設と積極的な広告:日本語でのコミュニケーションに不安がある外国人でも安心して受講できるよう、多言語対応の教習プログラムや教材を用意し、積極的に広告を行うことで、都心部で待機期間が長い外国人ドライバーを呼び込むことが期待できます。例えば、「最短〇週間で免許取得可能!」といった具体的な期間を提示するのも効果的でしょう。
- 試験頻度の向上:地方の教習所は、都心部に比べて試験会場の混雑が少ないため、試験の実施頻度を高く設定することが可能です。これにより、外国人ドライバーの免許取得までの期間を大幅に短縮し、彼らのニーズに応えることができます。週に複数回試験を実施するといった具体的なアピールも有効です。
- 送迎サービスの提供:地方の教習所へのアクセスを容易にするため、最寄りの駅や宿泊施設からの送迎サービスを提供することも、外国人ドライバーにとって大きな魅力となります。
- 宿泊施設の紹介や連携:長期滞在が必要となる場合に備え、近隣の宿泊施設と連携し、情報提供を行うことも、外国人ドライバーの安心感に繋がります。
新たな需要に応え、未来を拓く
少子化という逆風の中で、従来の顧客層に頼るだけでは、教習所の存続は厳しくなるかもしれません。しかし、「免許の壁」を「チャンス」と捉え、特定技能外国人ドライバーの免許切り替え支援という新たな市場に積極的に参入することで、活路を見出す可能性は大いにあります。
この新たな需要に応えることで、教習所は経営の安定化を図り、地域社会への貢献も果たせるはずです。
あなたは、この変化の波に乗り遅れることなく、新たな一歩を踏み出す準備はできていますか?