2024年夏、大阪市内のアパートで、ひとりのベトナム人男性が孤独死しているのが見つかった。彼の遺体は、発見までに数日が経過していたという。部屋には、彼が家族に送金した形跡と、母国語で書かれた日記が残されていた。来日して数年、彼は誰にも看取られることなく、日本で静かに息を引き取った。
これは、外国人材の受け入れが進む日本社会が直面する、現代の悲劇です。多くの外国人が、祖国を離れて日本の経済を支える一方で、言語や文化の壁、そして社会からの孤立が、彼らを誰にも看取られない「孤独死」へと追い込んでいるのです。
言葉の壁が引き起こす「見えない孤立」
孤独死の背景には、深刻な社会からの孤立があります。その最大の原因は、言葉の壁です。
多くの外国人は、仕事では日本語を使いますが、生活のすべてを日本語でこなすのは困難です。体調が悪くなっても、症状を正確に伝えられる病院を見つけるのは難しい。近所の人との簡単な挨拶すら、心理的な障壁となります。
あるネパール人男性は、体調不良を感じても、日本語での受診に不安を感じ、市販薬で済ませていたといいます。彼は、仕事仲間や母国の友人との連絡はSNSで取っていましたが、日本の地域コミュニティには一切属していませんでした。こうした「見えない孤立」は、体調の急変や心の不調に誰も気づかないまま、孤独死へと繋がってしまいます。
外国人労働者が受けられる医療と現実の「空白」
外国人労働者は、日本で働く場合、原則として公的医療保険(健康保険または国民健康保険)に加入します。これにより、日本国民と同様に、医療費の自己負担は3割で済み、一定水準の医療サービスを受けることができます。
しかし、この制度が十分に機能しない現実があります。
- 医療機関の対応不足: 多言語に対応できる医療機関は少なく、特に地方ではほとんど存在しません。通訳サービスも限られており、症状を正確に伝えられず、適切な診断や治療を受けられないケースが後を絶ちません。
- 保険制度の理解不足: 日本の複雑な医療保険制度や、高額療養費制度などの利用方法を理解していない外国人も多く、金銭的な不安から受診をためらうことがあります。
- 非正規滞在者の医療: 雇用主とのトラブルなどで失踪し、非正規滞在者となった場合、国民健康保険から脱退させられることがあり、医療費を全額自己負担しなければなりません。これは、病気になっても病院に行けず、症状が悪化する大きな要因となっています。
「永住者」でも孤独死する現実
孤独死は、短期滞在の外国人だけの問題ではありません。日本に長年住み、永住権を持つ外国人にも悲劇は起きています。
大阪府警の調査によると、2022年に大阪府内で孤独死した外国人は72人に上り、その中には中国や韓国からの永住者も含まれていました。彼らの多くは、高齢になり、配偶者や友人を亡くした後、日本のコミュニティに溶け込めず孤立したと言います。これは、外国人材の受け入れ制度だけでなく、日本社会全体が、異文化を持つ人々を「永住者」としてどう受け入れていくかという、より根深い問題を提起しています。
共生社会の実現に向けた「二つの施策」
外国人孤独死を防ぎ、真の共生社会を築くためには、以下の施策が不可欠です。
- 包括的な医療支援体制の構築: 医療機関に多言語対応の通訳を配置する体制を整備し、医療保険制度の利用方法を多言語で周知徹底する。さらに、非正規滞在者に対しても、緊急時の医療サービスを提供できるような仕組みを検討する必要があります。
- 地域コミュニティの再構築: 地域住民が外国人との交流を深められるイベントを自治体が積極的に支援する。言葉の壁を越えたボランティア活動や、多文化共生センターの機能を強化し、彼らが孤立しないための受け皿を増やすことが求められます。
これらの施策は、彼らを孤独死の淵から救うだけでなく、日本社会をより豊かで温かいものに変える一歩となるはずです。孤独死は、個人だけの問題ではありません。それは、社会全体が共有すべき課題なのです。