デジタルノマドビザ、導入から1年。その課題と、専門家が向き合うべき「壁」とは

ノマドワーカー

2024年に導入されたデジタルノマドビザは、世界を旅しながらリモートで働く人々に日本を新たな拠点として選んでもらうための、画期的な取り組みです。しかし、導入から約1年が経過した現在、申請件数は伸び悩んでおり、この制度が本当に機能しているのか、疑問の声も上がっています。

この記事では、制度導入の背景にある期待と、実際に運用される中で見えてきた「見えない壁」に焦点を当て、専門家が今後果たすべき役割について考察します。

この記事を読んでほしい人

  • 外国人材の誘致に関わる企業担当者
  • デジタルノマドとして日本での滞在を検討している方
  • 行政書士や入管職員など、在留資格制度の専門家


デジタルノマドビザ、導入から見えた「見えない壁」

2024年4月に導入されたデジタルノマドビザは、海外の顧客から収入を得る専門職の人々に、最長6か月の日本滞在を許可するものです。しかし、申請件数は数百件にとどまり、当初の期待を下回る結果となっています。この背景には、制度設計におけるいくつかの「見えない壁」が横たわっています。

税制:複雑なルールが二重課税のリスクに

デジタルノマドは、海外の顧客から収入を得ます。日本の税制では、日本に1年以上滞在すると「居住者」とみなされ、全世界所得に対して日本の所得税が課税されます。

デジタルノマドビザの滞在期間は最長6か月ですが、これを超える長期滞在を検討するデジタルノマドにとっては、二重課税を防ぐための複雑な国際税務手続きが大きな懸念材料となります。この税制上の複雑さが、日本での長期滞在を躊躇させる一因となっているのです。

社会保障:保険加入義務の線引き

日本の公的医療保険や年金制度への加入義務も大きな論点です。もし加入を義務付ければ、彼らの負担は増え、日本滞在の魅力を損ないます。一方で、義務付けなければ「フリーライダー」を生み出すリスクがあります。この問題に対し、デジタルノマドビザでは、民間医療保険への加入を義務付けることで対応しています。これにより、公的サービスの負担増を避けつつ、滞在中の安心を確保しています。


専門家が担うべき役割と今後の展望

デジタルノマドビザの運用が本格化する中で、専門家が果たすべき役割はますます重要になっています。

  • 高度なアドバイスの提供: 行政書士は、単なる書類作成代行にとどまらず、複雑な税務や法務に関するアドバイスを提供することで、デジタルノマドの日本での活動をサポートする新たな専門分野を築く必要があります。
  • 審査能力の向上: 入管職員は、デジタルノマドの多様な働き方を理解し、彼らの活動実態や在留目的を正確に把握するための、より高度な審査能力が求められます。
  • 制度改善への働きかけ: 専門家は、制度の運用を通じて明らかになった課題(例:長期滞在者の税制問題)を行政にフィードバックし、持続可能な受け入れ体制を構築するための議論を重ねていく必要があります。

デジタルノマドビザは、単なる観光促進策ではなく、日本のイノベーションや地方創生に貢献する可能性を秘めています。この制度を真に成功させるためには、行政、そして私たち専門家が連携し、制度の課題に正面から向き合い、建設的な議論を重ねていくことが鍵となるでしょう。


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