「使い捨て」批判を越えられるか?外国人材の新制度「育成就労」の仕組みと「転職ルール」を解説

畜産農家で働くバングラデシュ人男性、休憩時間に佇んでいる

特定技能制度の後継として創設が予定されている「育成就労制度」は、日本の外国人材受け入れ政策における大きな転換点です。この制度は、従来の技能実習制度で問題となっていた「転籍の制限(事実上の転職禁止)」を大幅に緩和し、外国人材の権利保護を強化することを目的としています。

しかし、「育成就労」が具体的にどのような仕組みで、どのように転職ができるようになるのかは、まだ広く理解されていません。制度の全体像と、労働者の自由なキャリア形成を可能にする「転籍の条件」について、わかりやすく解説します。


育成就労制度の仕組みを理解する

育成就労制度は、外国人材に日本で働きながら技能と日本語能力を習得してもらい、その後に特定技能1号〜特定技能2号への移行、そして最終的には永住まで視野に入れた、長期的な人材育成と活用を目指す制度です。

  • 目的: 技能実習制度の「国際貢献」という建前を見直し、「人材の確保と育成」を明確な目的とします。
  • 主な在留期間: 最長3年間で、企業は外国人材を労働者として受け入れます。
  • 特定技能への接続: 育成就労で一定の技能と日本語能力を習得した後に、特定技能へとスムーズに移行できる設計となっています。

この制度の最も大きな変更点は、外国人材を一つの職場に縛り付けることを原則としていた技能実習制度から脱却し、労働者の自由な転職を認める方向へ舵を切ったことです。

画期的な「転籍(転職)」の緩和とその条件

育成就労制度における「転籍」は、単なる職場変更ではなく、外国人材の権利保護とキャリア形成を促進するという強いメッセージを持っています。ただし、無秩序な転職を防ぎ、育成目的を維持するために、一定の条件が設けられています。

A. 転籍制限期間:原則「1〜2年」で設定される

転籍できるまでの期間は、職種・産業分野ごとに1年または2年以内で定められます。

  • 1年を超える制限: 1年を超える制限を設ける場合は、日本語能力の向上に関する目標設定や、その分野の特別な育成計画を立てる必要があります。
B. 転籍の要件:技能・日本語レベルの到達

労働者が転籍(転職)するためには、以下の二つの基準を両方とも満たす必要があります。

  1. 技能水準の維持: 一定の水準の技能を習得していること。
  2. 日本語能力の向上: 一定の水準の日本語能力を有すること、その他分野別運用方針で定める要件を満たしていること。

これらは、単に期間が過ぎるのを待つのではなく、転籍までに職場でしっかりと学び、成長することが求められていることを意味します。

C. 企業が負担する「初期費用」の精算(ペナルティではない)

企業が外国人材の受け入れ時に負担した費用(渡航費、講習費など)について、外国人材が転籍する際、新しい雇用主がその費用を清算する仕組みが導入されます。

直近の雇用主が育成に費やした期間 転籍先企業が清算する初期費用
1年未満 6分の5 (約83%)
1年以上2年未満 6分の3 (50%)
2年以上6年未満 6分の2 (約33%)
2年6ヶ月以上 6分の1 (約17%)

これは、転籍に伴う旧雇用主の育成コストを、新雇用主が負担するという考え方であり、外国人材本人に過度な金銭的な負担を負わせないための重要な措置です。

D. 転籍割合の制限:職場の安定を維持

無秩序な人材流出を防ぐため、特定分野の転籍については一定の割合で制限が設けられます。

  • 基本ルール: 転籍した育成就労外国人の数が、その分野の全育成就労外国人の数の3分の1(約33%)を超えないこと。
  • 地域による緩和: 地域によっては、転籍者の割合が6分の1(約17%)を超えないよう求めるなど、地域や分野の特性に応じた緩和措置が設けられています。

この仕組みがもたらす意義

育成就労制度の転籍緩和は、日本の外国人雇用に対する姿勢の大きな変化です。

  • 労働者の権利保護: 外国人材が不当な扱いを受けた場合や、より良い条件で働きたい場合に、自ら職場を選択する自由が保障されます。
  • 企業の質の向上: 企業は、労働者が逃げ出すことのないよう、労働環境や待遇の改善を迫られます。これは、制度の悪用を防ぎ、日本の外国人雇用の質全体を引き上げる効果を期待できます。

育成就労制度は、外国人材を「使い捨て」ではなく「共に成長するパートナー」として迎え入れ、日本の人手不足を解決するための試金石となるでしょう。