特定技能「職種追加」プロセスを透明化せよ 政治的圧力とデータ軽視が招く政策の歪み

会議室のテーブルに置かれた一枚の書類

日本の人手不足を解消するための切り札である在留資格「特定技能」。その受け入れ分野は、介護や建設、飲食料品製造などに加え、2024年にはトラック運転手(自動車運送業)、将来的には倉庫業(2027年予定)など、次々と拡大しています。

しかし、この「職種追加」のプロセスは、水面下でのロビー活動や政治的圧力の影響を受けやすく、国民にはその決定根拠が十分に開示されないという、深刻な不透明性を抱えています。これは、特定技能制度が「真の国益」と「現場の現実」に基づいて運営されているのか、という根本的な疑問を生じさせています。


データが軽視される「政治主導」の決定プロセス

特定技能の分野追加は、本来、以下の客観的なデータに基づいて、中長期的な視点で行われるべきです。

  1. 人手不足の深刻度(有効求人倍率): 他職種と比較して、明らかに採用が困難な状況にあるか。
  2. 日本人による代替可能性: DXやAI、省人化技術では補えない領域か。
  3. 社会基盤維持の喫緊性: サービスが途絶えた場合に、国民生活に致命的な影響が出るか。

ところが、実際の分野追加の動きは、しばしば政治的・業界的な圧力に大きく左右されている疑いがあります。

  • 突如の分野追加: トラック運転手のように、「2024年問題」という喫緊の社会危機を背景に、極めて短期間で特定技能の対象に追加されました。緊急性は理解できるものの、「なぜこれまで議論が進まなかったのか」「追加による社会インフラへの影響は十分に検討されたのか」というプロセスは不透明なままです。
  • ロビー活動の成功: 特定の業界団体や政治家からの強い要望が、データの優先順位を上回る形で政策決定を歪めている可能性があります。これは、「本当に困っている中小零細の職種」よりも「政治的な影響力が強い巨大産業」が優先されるという、不公平な結果を招きかねません。

政策決定の「ブラックボックス化」が招く二重のリスク

分野追加プロセスが不透明であることは、日本の国益と制度の信頼性に以下の二重のリスクをもたらします。

リスク①:外国人材の「適正不一致」と「社会摩擦」

データに基づかず、政治的な動機で性急に分野が拡大されると、その職種の専門技能を身につけていない外国人が制度の枠組みで流入する可能性があります。

  • 未払い問題の拡大: 適正のない人材が企業に流入することで、先に論じた医療費や社会保険料の未払い問題といった社会的な摩擦の種が増大します。
  • 定着率の悪化: 適切な教育・指導体制がないままに受け入れが進めば、外国人材はすぐに転職(育成就労では転籍)を繰り返し、結果的にどの企業も人材が定着しないという悪循環に陥ります。

リスク②:国民の「制度への不信感」増幅

国民の多くは、外国人材の受け入れに際して、「治安の維持」「社会保障の公平性」「日本の文化・秩序との調和」といった懸念を抱いています。

「なぜこの職種が選ばれたのか」「この拡大は本当に必要なのか」という根拠が明確に示されなければ、国民は「外国人材の受け入れは、政治家や大企業の都合で密室で決められている」と感じ、制度全体への不信感と排他的な感情を増幅させることになります。

「透明化」が日本の持続可能性を守る

高市政権は「ルール厳格化」を掲げていますが、真の厳格化とは、現場で働く外国人だけでなく、「政策決定のプロセス」にも適用されるべきです。

政府が取り組むべきは、以下の「決定プロセスの透明化」です。

  1. データ公開の義務化: 分野追加を検討する際、その職種の有効求人倍率、日本人による代替可能性の分析結果、社会影響の試算などを事前に公開し、国民や専門家の意見を求める期間を設ける。
  2. 諮問機関の独立性強化: 業界団体の意向を反映する場だけでなく、経済学者や社会学者、移民政策の専門家など、多角的な視点を持つ独立した諮問機関の意見を、決定プロセスに強く反映させる。

特定技能制度は、今後数十年にわたる日本の社会構造を決定づける重要な政策です。その決定がブラックボックスの中で行われることは、日本の持続可能性そのものへのリスクとなります。政治的な思惑を排し、データと国益に基づいた透明なプロセスを確立することが、新政権に課された責務です。