社説:外国人労働者受け入れと不法就労問題:持続可能な共存に向けた茨城県の挑戦

農作業に従事するスリランカ人女性2名

茨城県の大井川知事が、2025年3月26日の定例会見で、県内における不法就労外国人の数が全国で最も多かったことを受け、対策を強化する方針を示したことは、看過できない重要な問題提起である。人口減少が進む日本において、外国人労働者の存在は経済活動を維持する上で不可欠となりつつある。しかしながら、その受け入れと並行して、不法就労という深刻な問題が存在することもまた事実であり、両立の難しさを改めて浮き彫りにしている。

出入国在留管理庁の発表によれば、昨年、茨城県内で不法就労と認定された外国人は3452人に上り、前年比で1.2倍以上、全国最多となった。これは、県が外国人材の確保を政策の柱の一つに掲げている現状と矛盾するものであり、この問題への真摯な対応が急務となっていることを示唆している。

大井川知事が「人材不足の中で外国人の就労者の活用は、経済活動にとって、今や無くてはならない状況になる中で、不法就労が多いことについて非常に懸念をしている」と述べたように、外国人労働者の存在は、特に地方においては、地域経済の維持に不可欠なものとなっている。建設業や農業など、人手不足が深刻な業種においては、外国人労働者の力なしには事業の継続が困難な状況も少なくない。

一方で、不法就労の問題は、外国人労働者自身にとって、劣悪な労働環境や不当な待遇につながる可能性があり、人権上の問題としても看過できない。また、適正な在留資格を持たない外国人の増加は、治安への懸念や地域社会との摩擦を生む可能性も否定できない。

茨城県が今回発表した対策は、この二つの側面を考慮したものであると言えるだろう。来月設置される「外国人適正雇用推進室」には、県警本部の職員も配置され、雇用主に対する啓発や指導を強化する。さらに、「適正雇用促進月間」を設け、関係機関との合同パトロールを実施する。宣誓書を提出した事業者へのステッカー交付も、不法就労を未然に防ぐための取り組みとして評価できる。

しかしながら、これらの対策はあくまで「対症療法」に過ぎず、根本的な解決には至らない可能性がある。不法就労が後を絶たない背景には、外国人労働者を受け入れる側の問題、つまり、労働条件や待遇、適切な雇用管理体制の欠如といった構造的な問題が潜んでいる可能性も否めない。

では、この問題を解決し、外国人労働者との持続可能な共存社会を築くためには、どのような解決策が考えられるだろうか。

まず、外国人労働者を受け入れる企業側の意識改革と、コンプライアンス体制の強化が不可欠である。単に人手不足を補うためだけでなく、外国人労働者を正当な労働力として尊重し、適切な労働環境と待遇を提供することが重要となる。

次に、政府による制度設計の見直しと、よりきめ細やかな情報提供体制の構築が求められる。在留資格の種類や取得手続きを分かりやすくし、外国人労働者が安心して就労できる環境を整備する必要がある。また、企業に対しても、外国人雇用に関する適切な情報提供や相談窓口を充実させるべきである。

さらに、地域社会全体で外国人労働者を受け入れるための理解を深める努力も不可欠である。多文化共生を推進するための啓発活動や、地域住民と外国人労働者との交流機会を積極的に設けることで、相互理解を深め、偏見や差別をなくしていく必要がある。

そして何よりも重要なのは、不法就労を生み出す根本原因を徹底的に分析し、その解消に向けた具体的な対策を講じることである。低賃金や劣悪な労働環境が不法就労を誘発している可能性も考慮し、労働基準法の遵守を徹底させるための監視体制を強化する必要がある。

茨城県の今回の取り組みは、不法就労という負の側面に向き合い、問題解決への強い意志を示すものである。しかし、この問題は一地方自治体だけの努力で解決できるものではない。国全体で、外国人労働者の受け入れと共存に関する包括的な政策を策定し、実効性のある対策を講じていくことが求められる。

外国人労働者を完全に締め出すことは、日本の社会と経済の持続可能性を損なう結果を招きかねない。一方で、不法就労の問題を放置することも、社会の安定を揺るがしかねない。この困難な課題に真摯に向き合い、外国人労働者と日本人双方が安心して共に暮らせる社会の実現に向けて、官民一体となった取り組みを加速していくことが、今こそ求められている。茨城県の今回の挑戦が、そのための重要な一歩となることを期待したい。