韓国・台湾に学ぶ高スキル人材獲得の戦略転換:「低賃金労働者」依存を脱却し日本の国際競争力を回復せよ

韓国の高層ビル群

日本の外国人雇用政策は、特定技能や育成就労制度に見られるように、社会インフラ維持のための「労働力確保」、特に低賃金労働力の補填に重点が置かれています。しかし、同じアジア圏の競合国である韓国や台湾は、すでにこの段階を脱し、「高スキル人材の誘致」を国家成長戦略の核心に据えています。

この政策の違いこそが、日本の国際競争力の停滞、ひいては低成長の根本原因です。日本が「低賃金労働者ばかり集める国」というイメージから脱却し、高付加価値人材を惹きつけるために、競合国の戦略から何を学ぶべきかを分析します。


競合国が実行する「高スキル人材」への直接投資

韓国や台湾は、複雑な手続きや長期滞在の要件を排除し、「優秀な人材がすぐに来られ、長く定着できる」制度設計に国家資源を投入しています。

制度の中心日本への差
韓国点数制移民制度(F-2-7ビザ)「永住権への最短パス」の提供。学歴、所得、年齢、韓国語能力などを点数化し、基準点を満たせば長期滞在(5年)が可能となり、永住権(F-5)への移行も容易。
台湾ゴールドカード(就業・居留・再入国許可)「行政手続きの徹底的な簡素化」。科学技術、経済、文化など8分野で一定の専門性を持つ外国人に、4in1(ビザ、労働許可、居留証、再入国許可)のカードをオンラインで一括発行。
日本高度専門職ビザ煩雑な手続きと審査期間の長さ。点数制はあるものの、転職時の再申請や家族滞在の制限など、利便性で劣る。特定技能は原則として「労働力」であり、イノベーション人材ではない。

【韓国・台湾から学ぶ教訓】

彼らの政策は、「優秀な人材は、複雑な手続きを嫌い、時間と利便性を求める」という点を深く理解しています。特に台湾のゴールドカードは、面倒な行政手続きから高スキル人材を解放し、すぐに仕事と研究に集中できる環境を提供しています。

日本の政策が持つ「構造的欠陥」

日本の外国人政策は、「低賃金労働力」と「高度人材」の間に、大きな「断層」を生じさせています。

欠陥①:「消耗型」労働モデルの温存

特定技能制度は、人手不足の現場を支える役割を果たしますが、これは低賃金水準と低い生産性を前提としたビジネスモデルを維持させています。企業は、外国人労働力の供給に頼ることで、DXやロボティクスへの投資インセンティブを失い、結果的に高スキル人材が活躍できる高付加価値な仕事自体が増えません。

欠陥②:給与と永住権の「アンバランス」

日本で高いスキルを持つ外国人が直面するのは、「低賃金で永住権を得るのが困難」という二重の壁です。

  • 賃金の停滞: 円安とデフレ傾向により、日本の賃金は世界的に魅力が低下しています。
  • 永住権の不確実性: 高度人材ビザ(特定技能2号含む)も存在するものの、制度が頻繁に変更される上、「日本に長期的に貢献する」ための確実な道筋が他国に比べて見えにくい状況です。

優秀な外国人は、賃金が高く、かつ家族の教育や医療環境も整っている(そして永住しやすい)国を当然選ぶため、日本は「低賃金・低スキルの人材」が残りやすいという構造的欠陥を抱えてしまっています。

日本が「選ばれる国」になるための戦略転換

日本がこの「低賃金労働者依存」の悪循環を断ち切り、高付加価値人材を惹きつけるためには、政策の根本的な哲学を転換する必要があります。

  1. 「高度人材」の定義を再構築し、ビザのスピードを最優先せよ:韓国・台湾のように、手続きを簡素化し、「優秀な人材」と判断されたら1ヶ月以内に労働許可証を出すスピードを追求すべきです。また、IT分野や研究開発職については、年収や研究実績のみに焦点を当て、日本語能力を必須としないパスを新設します。
  2. 「家族と定住」を国家の優遇策とせよ:高スキル人材の多くは家族帯同を望みます。彼らの家族が住みやすく、高品質の教育を受けられる環境(インターナショナルスクールへの補助など)を整備することで、日本を「生活拠点」として選ばせることが重要です。
  3. 特定技能分野の「高生産性化」を義務化せよ:特定技能で外国人材を受け入れる企業に対し、生産性向上技術(DX、ロボット)への投資を義務付けるなど、政策と規制で低生産性モデルの維持を許さない仕組みを導入します。これにより、現場の仕事自体が高付加価値化し、やがて高スキル人材が活躍できるフィールドが生まれます。

日本の未来は、「社会のインフラを維持する労働力」と「未来を創造する知性」の両方をバランス良く確保できるかにかかっています。競合国の成功事例を素早く取り入れ、高付加価値人材への「投資」を最優先する国家戦略への転換が急務です。