社説:看護師不足深刻化、外国人材活用は喫緊の課題 – 制度と現実の乖離を埋めるために

市民病院の薄暗い廊下を3名の看護師がこちらに向かって歩いてくる

我が国における看護師不足が、もはや看過できない水準に達している。高齢化に伴う医療ニーズの増大、地方を中心とした地域医療の崩壊、そして過酷な労働環境に起因する看護師の離職率の高さが複合的に作用し、医療現場はまさに逼迫の極みにある。政府は経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師の受け入れや、在留資格の整備を進めているが、その効果は限定的であり、抜本的な対策が喫緊の課題である。

EPA(経済連携協定)とは、日本と特定の国との間で、貿易や投資の自由化、人の移動の円滑化などを目的として結ばれる協定である。その中で、看護師や介護福祉士といった専門職の人材移動も含まれている。しかし、この制度が現実の医療現場における人材不足の解決に貢献しているかと言えば、疑問符をつけざるを得ない。

EPAに基づく看護師受け入れは、国際協力の観点からは一定の意義を持つ。しかし、言語や文化の壁、日本の看護師国家試験の難易度、そして受け入れ後のサポート体制の不十分さなど、乗り越えるべき課題は山積している。国家試験の合格率は依然として低迷し、せっかく来日した人材も、その能力を十分に発揮できずに帰国するケースが後を絶たない。また、受け入れ後の生活支援、精神面のケア、キャリアアップ支援などが不足しているとの指摘も多く、制度と現実の乖離が浮き彫りになっている。

外国人看護師の在留資格についても、要件の厳格さがネックとなり、実際の受け入れ数は伸び悩んでいる。日本の医療現場で働く意欲と能力を持つ優秀な人材は確かに存在する。しかし、制度の壁がそれを阻んでいる現状は、早急に改善されなければならない。

看護師不足は、医療現場の疲弊を招き、ひいては国民の健康を脅かす。外国人材の活用は、その解決策の一つとして重要な選択肢である。しかし、そのためには、受け入れ制度の見直しと、外国人看護師が働きやすい環境の整備が不可欠である。

具体的には、以下のような対策が求められる。

  • 国家試験の改善: 外国人受験者向けの試験内容や評価方法の見直し、日本語教育の強化、試験対策の充実など
  • 受け入れ後のサポート体制の充実: 生活支援、メンタルケア、キャリアアップ支援、文化的な適応支援など
  • 在留資格要件の緩和: 優秀な人材が活躍できる柔軟な制度設計、専門性の高い人材に対する優遇措置など
  • 医療現場の多文化共生推進: 医療従事者への異文化理解研修の義務化、多言語対応の推進、外国人看護師が働きやすい職場環境の整備など
  • 国内の看護師の労働環境改善: 労働時間の適正化、給与水準の向上、キャリアパスの明確化など

これらの対策を講じることで、外国人看護師が日本の医療現場でその能力を最大限に発揮し、看護師不足の解消に貢献することが期待される。

政府は、外国人材の受け入れを単なる「労働力不足の解消」という側面だけでなく、「多様な人材の活用による医療の質の向上」という視点からも捉え、総合的な対策を講じるべきである。そして、国民一人ひとりが、多文化共生社会の実現に向けて意識を高めていくことが重要である。