深刻な人手不足を背景に、我が国は外国人労働者の受け入れを拡大せざるを得ない状況にある。それは単なる労働力としての受け入れに留まらず、彼らが私たちの隣人として、共に地域社会を形成していくことを意味する。多文化共生社会の実現は、もはや避けて通れない課題であり、その成否は、私たち一人ひとりの人権意識の高さにかかっている。
しかし、残念ながら、我が国の社会は、外国人の人権を十分に尊重できているとは言い難い。名古屋入管で起きたスリランカ人女性の死亡事件は、その痛ましい現実を突きつけた。2021年3月6日、名古屋出入国在留管理局に収容されていたウィシュマ・サンダマリさんが死亡した。33歳という若さであった。彼女は、DV被害から逃れるために来日し、在留資格を失って収容されていた。収容中、体調不良を訴え、衰弱していく様子が監視カメラに記録されていたが、適切な医療措置は行われず、帰らぬ人となった。
この事件は、入管における医療体制の不備、職員の人権意識の欠如、情報公開のあり方など、多くの問題を私たちに問いかけている。専門家からも指摘されてきた入管の医療体制は、十分なものであったのか。職員の対応は、収容者の人権に対する配慮を欠いていたのではないか。情報開示が遅れたことは、真相解明を妨げたのではないか。これらの問いに、私たちは真摯に向き合わなければならない。
外国人が私たちの隣人となる未来において、彼らの人権を尊重することは、我が国の社会の品格を問うものである。国籍や在留資格に関わらず、一人ひとりの人権を尊重する意識を育む必要がある。外国人が安心して暮らせるよう、医療や福祉の体制を充実させる必要がある。行政は、外国人に関する情報を積極的に公開し、透明性を確保する必要がある。外国人と日本人が互いの文化や価値観を尊重し、共に生きていくための取り組みが必要である。
私たちは、ウィシュマさんの死を無駄にすることなく、多文化共生社会の実現に向けて、共に歩んでいかなければならない。隣人は「異邦人」ではない。共に生きる社会を築く。その覚悟が、今、私たちに問われている。