日本で働く外国人労働者が、真面目に納めた年金。そのうち、なんと年間で最大2,500億円もの年金が、誰にも請求されないまま、日本に残されている可能性があるのをご存知でしょうか?
帰国する外国人労働者が請求し忘れた、この「見えない年金」は、最終的にどうなるのか。そして、この状況に登録支援機関はどのように関わっているのでしょうか。
知っておきたい、外国人のための年金制度
日本で働く20歳以上の外国人労働者は、日本人と同様に公的年金制度に加入し、保険料を納める義務があります。
しかし、老後に年金を受け取るには、原則として10年以上の加入期間が必要です。数年で帰国する多くの外国人材は、この資格を満たせません。そのため、納めた保険料の一部を「脱退一時金」として受け取ることができます。この制度は、帰国後に本人が請求することで、最長5年間分の年金が払い戻される仕組みです。
なぜ、そんなに多くの人が請求しないのか?
脱退一時金制度があるにもかかわらず、なぜ莫大な金額が放置されているのでしょうか。その背景には、制度の複雑さや、外国人材と日本の社会をつなぐ支援の「理想と現実」のギャップがあります。
- 制度を知らない: そもそも、脱退一時金制度の存在や、手続きの方法を知らないまま帰国してしまうケースが多くあります。
- 手続きが複雑: 請求手続きは、外国人本人にとって非常に複雑で、必要な書類を揃えたり、すべて日本語で対応したりすることに大きな負担を感じます。
- 登録支援機関の関与: 登録支援機関は、外国人材が安心して生活できるよう、帰国時の手続き支援も行う義務を負っています。しかし、現実には、目の前の業務に追われ、帰国後の手続きまで手が回らない機関も少なくありません。また、申請期限(出国後2年以内)を過ぎてから連絡が来た場合、もはや手の施しようがないという状況も発生します。
これらの課題が重なり、年間約20万〜30万人の帰国者に対し、脱退一時金の支給件数は年間約11万件にとどまっています。この差が、年間最大2,500億円にものぼると推計される「見えない年金」の正体なのです。
2,500億円の推定、その計算方法とは?
この2,500億円という数字は、以下のデータと仮定に基づいて推計されています。
- 脱退一時金を請求しなかった人数を推計
- 年間帰国者数(約20万~30万人) - 脱退一時金の支給件数(約11万件) = 約9万~19万人
- 一人あたりの脱退一時金の平均額を仮定
- 厚生年金に5年間加入し、月収23万円の場合、脱退一時金は約132万円と試算されます。これを、請求されなかった場合の平均金額として用います。
- 総額を算出
- 請求しなかった人数(約19万人) × 一人あたりの平均額(約132万円) = 約2,508億円
この金額はあくまで推計であり、様々な要因で変動します。しかし、この「見えない年金」が莫大な金額に達していることは間違いありません。
最後に
「見えない年金」の存在は、日本の社会が外国人労働者の経済活動によって、目に見えない形で支えられていることを物語っています。
この莫大な金額を、本来の持ち主である外国人材に届けるためには、制度の簡素化はもちろんのこと、最後の支援を担う登録支援機関の役割の重要性が改めて問われます。
外国人材との共生は、もはや単なる道徳論ではなく、日本の社会・経済、そして年金制度の未来を考える上で、避けて通れない重要なテーマなのです。









