ドナルド・トランプ大統領は2025年9月21日、「専門職ビザ」と呼ばれるH-1Bビザの手数料を従来の1000ドルから10万ドル(約1479万円)に引き上げる大統領令に署名しました。この決定は、外国人を多く雇用する米国の企業に大きな波紋を広げています。
ロイター通信によると、米IT大手マイクロソフトや金融大手JPモルガンなどが、ビザ保有者に対し、「当面、米国を離れないように」「海外旅行を控えるように」と警告するメールを送付しました。H-1Bビザは、科学・技術・工学・数学(STEM)分野の専門職向けビザで、年間発給件数が制限されています。この手数料が100倍にもなれば、企業は高額なコスト負担を強いられ、外国人材の採用を大幅に縮小せざるを得なくなります。ラトニック商務長官は、「米国人を雇用し、入ってくる者が最高なのかを確実にしなければならない」と述べ、自国の人材を優先する姿勢を明確にしました。
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もし日本で同様のことが起きたら?外国人雇用に迫る深刻な問題
もし日本で同様の政策が実施された場合、日本企業や経済に以下のような深刻な問題が生じる可能性があります。
1. 企業のコスト急増と国際競争力の低下
日本における高度専門職ビザに相当するビザの手数料が大幅に引き上げられると、IT、製造業、研究開発など、外国人材を積極的に雇用している企業のコストが急増します。これにより、企業の新規投資や事業拡大が停滞し、国際市場での競争力が低下するでしょう。特に中小企業にとっては、高額なビザ費用が外国人材採用の大きな障壁となり、人材不足がさらに深刻化するリスクがあります。
2. 優秀な外国人材の日本離れ
高額なビザ手数料は、日本で働く外国人専門職にとって大きな負担となります。日本での就労を検討している優秀な人材は、より経済的な負担が少ない国、例えばカナダやドイツ、オーストラリアなど、他の先進国を選ぶ可能性が高まります。結果として、日本は貴重なグローバル人材を失い、イノベーションや技術発展が停滞する恐れがあります。
3. 外国人コミュニティの縮小と社会の停滞
ビザ更新のたびに高額な手数料が課される場合、外国人専門職は長期的な日本でのキャリア形成を断念するかもしれません。これにより、日本に定着する外国人コミュニティが縮小し、多様性(ダイバーシティ)が失われる可能性があります。異なる文化や視点を持つ人材が減れば、新しいアイデアや社会の活力が失われ、長期的に日本社会全体の停滞を招くことになります。
極端な「自国優先主義」がもたらす長期的なリスク
今回のトランプ政権による極端なH-1Bビザ政策は、単なる移民規制にとどまらず、グローバルな人材獲得競争における米国の地位を危うくする可能性があります。短期的には「米国人雇用」という国内向けのスローガンに聞こえますが、高度な専門職は本来、国境を越えて移動する存在です。手数料の大幅引き上げは、他国がより魅力的な条件を提示する機会を与え、結果として米国の技術革新や経済成長のエンジンを失速させるリスクをはらんでいます。
日本においても、このような極端な「自国優先主義」に傾倒することは、少子高齢化が進む社会にとって致命的となりかねません。外国人材の受け入れは、単なる労働力の補充ではなく、日本の経済と社会を活性化させる重要な要素です。日本が国際的な魅力を維持するためには、優秀な外国人材を惹きつけるための開かれた政策が不可欠であり、短期的な政治的アピールに走るべきではないでしょう。