労働力輸出は国策だ!ベトナム・インドネシア・フィリピン政府の思惑

ベトナム、インドネシア、フィリピンの国旗

日本が外国人材の受け入れを拡大する一方で、送り出し国側にも、自国民を海外へ送り出す切実な理由があります。これは単なる人手不足の解消という日本の思惑とは異なり、その国の経済や社会構造に深く根ざした戦略です。特に、特定技能の送り出し国として上位を占めるベトナム、インドネシア、フィリピンの3カ国には、共通した背景と、それぞれの独自の事情が存在します。


ベトナム:国を挙げての人材輸出戦略

ベトナム政府は、自国民の海外就労を「労働力輸出」と位置づけ、国策として積極的に推進しています。その最大の目的は、外貨獲得です。海外で働く労働者から送金される外貨は、ベトナム経済の重要な柱となっています。

  • 失業率の改善: 国内の若年層は増加傾向にあり、国内産業だけでは十分な雇用を創出できません。海外での就労は、この失業問題の緩和に貢献しています。
  • 技術・知識の獲得: 海外での就労を通じて、自国民が先進国の技術やビジネスマナーを習得し、帰国後の国内産業の発展に貢献することを期待しています。
  • 手数料の規制: 過去には悪質な送り出し機関が問題視されていましたが、近年では手数料の上限を定めるなど、政府が関与を強め、制度の健全化を図っています。

インドネシア:外貨獲得と国内労働力調整

インドネシアは、ASEAN地域で最も人口が多く、若年層の労働力も豊富です。政府は海外就労を、国内の雇用問題を解決しつつ、経済成長を加速させるための重要な手段と位置づけています。

  • 外貨送金による経済効果: 海外からの送金は、国内消費を刺激し、経済成長を支える大きな要因となっています。
  • 国内雇用の調整弁: 経済成長に伴う都市部への人口集中を緩和し、地方の労働力の過剰を調整する役割も担っています。
  • スキルアップの機会: 建設や介護といった分野で特定技能として働くことで、自国民が専門的なスキルを身につけ、国内のインフラ整備や社会福祉向上に貢献することを期待しています。

フィリピン:国家的英雄「OFW」を支える仕組み

フィリピンでは、海外で働く自国民を「OFW(Overseas Filipino Worker)」と呼び、国家的英雄として称賛しています。OFWからの送金は、フィリピン経済の約10%を占めると言われ、政府もその保護と支援に力を入れています。

  • 手厚い保護制度: 政府機関であるPOEA(フィリピン海外雇用庁)が、海外で働く自国民の契約内容を厳しくチェックし、不当な労働環境から保護する仕組みを構築しています。
  • 外貨送金の安定: 送金システムを整備し、手数料の安い公的なルートを推奨することで、安定した外貨流入を確保しています。
  • 英語力の強み: 英語が公用語であるフィリピンでは、語学力を活かしてサービス業や介護分野などで活躍する人材が多く、多様な職種に送り出しやすいという強みがあります。

事例が示唆する「送り出し国政府の本音」

これらの事例から読み取れるのは、送り出し国政府が外国人材の海外就労を、単なる「出稼ぎ」ではなく、国の発展に不可欠な「戦略的資源」と捉えているということです。

彼らの「本音」は、国内の雇用問題の解決、安定的な外貨獲得、そして自国民のスキルアップという3つの要素に集約されます。日本は、こうした送り出し国側の思惑を深く理解し、単なる労働力の受け入れに終わらない、Win-Winの関係を築いていくことが、持続可能な外国人材雇用にとって不可欠です。