参議院選挙が目前に迫り、一部で「外国人排斥」を煽るような動きが見られます。その根拠の一つとしてしばしば挙げられるのが、「外国人犯罪の増加」です。果たして、この主張は事実なのでしょうか? データに基づき、その真偽を検証します。
「外国人犯罪が増加している」という声の背景
「最近、外国人による犯罪が増えたように感じる」「ニュースでよく外国人による事件を見る」――。そう感じている方も少なくないかもしれません。近年のSNSの普及により、特定の事件が大きく取り上げられ、あたかも外国人による犯罪が急増しているかのような印象を抱く人も少なくありません。また、不法滞在者や技能実習生の問題などが報道される中で、外国人全体への不信感が募るケースも見受けられます。こうした状況が、「外国人犯罪増加」という言説の土壌となっていると考えられます。しかし、これは果たして客観的な事実に基づいているのでしょうか。
警察庁の統計データが示す実態
では、実際のデータはどうなっているのでしょうか。政府機関である警察庁が毎年発表している「来日外国人犯罪の検挙状況」を見てみましょう。この統計は、日本国内で検挙された外国人による犯罪の件数や人員をまとめた、信頼性の高いデータです。
1. 来日外国人による刑法犯検挙件数・検挙人員の推移
警察庁の統計によると、来日外国人による刑法犯の検挙件数および検挙人員は、近年減少傾向にあります。これは、多くの人が抱く「増加している」という印象とは大きく異なります。
- 検挙件数: ピークであった2004年の約3万件から、2023年には約1万件台後半にまで減少しています。
- 検挙人員: 同様に、2004年の約1万5千人から、2023年には約1万人前後で推移しています。
この数字は、日本に在住する外国人や訪日外国人観光客の数が増加していることを考えると、なおさら「外国人犯罪が激増している」という印象とはかけ離れていることがわかります。
2. 犯罪類型別の傾向
犯罪類型別に見ると、来日外国人による刑法犯では窃盗犯が最も多くを占めますが、これも全体と同様に減少傾向にあります。一方で、薬物犯罪や、近年増加傾向にある特殊詐欺などの知能犯への関与が指摘されるケースもあります。しかし、特定の犯罪類型での検挙があるからといって、外国人犯罪全体が「激増」していると結論付けるのは早計であり、全体の傾向としては減少しているのが実情です。
3. 日本人全体の犯罪件数との比較
さらに重要なのは、来日外国人による犯罪が、日本人全体による犯罪と比較してどの程度の割合を占めるかという点です。日本の刑法犯全体の検挙件数も近年減少傾向にあり、来日外国人による犯罪が全体に占める割合は、極めて低い水準で推移しています。もちろん、国籍別の人口比率などを考慮する必要はありますが、外国人だからといって、犯罪率が特別に高いという客観的なデータは見当たりません。
なぜ「外国人犯罪が増加している」と感じるのか?
実際のデータが減少傾向にあるにもかかわらず、なぜ多くの人が「外国人犯罪が増加している」と感じるのでしょうか。
- 報道のされ方: 外国人が関わる事件は、その国籍や背景が強調されて報じられがちです。これにより、個別の事件が強く印象に残り、「外国人による事件が多い」という誤った認識に繋がりやすい傾向があります。
- SNSでの拡散: SNS上では、真偽不明な情報や、一部の外国人による犯罪に関する情報が、しばしば感情的に、かつ切り取られた形で拡散されることがあります。これにより、偏った情報が広まり、不安を煽ることがあります。
- 特定の属性への偏見: 一部の外国人による問題行動が報道された際に、その事案を外国人全体に拡大解釈し、十把一絡げに見てしまう偏見も、外国人犯罪への過剰な懸念に繋がる可能性があります。
まとめ:データに基づく冷静な判断を
警察庁の公開データを見る限り、「外国人犯罪が激増している」という主張は、客観的な事実とは異なります。むしろ、来日外国人による刑法犯の検挙件数・人員は減少傾向にあり、日本人全体の犯罪と比較しても特段高いわけではありません。
もちろん、いかなる犯罪も許されるものではなく、個別の事案に対する厳正な対応は不可欠です。しかし、一部の事実を誇張し、外国人全体への不信感を煽るような言動は、社会の分断を招きかねません。
参議院選挙を前に、さまざまな情報が錯綜しています。私たちは、感情論や印象に流されることなく、公的なデータに基づき冷静に判断する姿勢が求められます。多様な人々が共存する社会を目指す上で、正確な情報に基づいた議論こそが、真の解決策へと繋がる第一歩となるでしょう。