外国人医療費未払い問題の深層:共生社会のコストを誰が負うのか

聴診器

深刻化する人手不足を前に、日本社会は外国人材との「共生」を避けて通れない段階に入っています。特定技能や育成就労など、外国人労働力を制度的に受け入れる枠組みが広がる一方で、その社会的なコスト、特に医療費の未払い問題が、現場の病院経営を静かに圧迫し始めています。

東京都の都立病院では、外国人による医療費の未収金が、令和6年度だけで1億7,155万円にものぼり、前年度の1億5,377万円からさらに増加しました。この問題は都立病院に留まらず、民間病院にも波及し、経営上の負担となっています。

人手不足解消のために外国人材の受け入れを推進する「新政権」にとって、この問題は単なる病院経営の問題ではなく、「共生社会のコストを公的にどう負担し、ルールをどう守らせるか」を問う、避けて通れない政治責任となっています。


「人道的責任」と「経営リスク」の間に立つ医療現場

外国人による医療費未払いの多くは、公的な医療保険制度に加入していない、あるいはビザが切れ、不法滞在となり公的扶助の制度適用外となっている外国人が原因です。

しかし、医療現場のプロフェッショナルとして、「不慮のけがをした患者を目の前にして、診察に応じないわけにはいかない」という強い人道的責任があります。特に救急搬送された場合、人命優先の原則から、病院は身元や支払い能力を問わず診療に応じざるを得ません。

この「人道」と「経営」の板挟みが、未収金という形で病院経営にのしかかっています。都内では、この未払いの総額をもとにすると、令和6年度だけで約1,000件もの未払い事案が確認されたとされ、これは看過できない規模の負担です。

東京都の対応と制度の限界

この病院経営の圧迫に対し、東京都は外国人による医療費の未払い分を一部補てんする事業を行っています。令和6年度には、都内の36施設に対し、未払い分の一部として計1,318万7,000円が公金で補てんされました。

  • 補てんの仕組み: 東京都福祉保健財団が都からの委託を受け、医療機関からの申請に基づき、同一患者・同一医療機関につき年200万円を上限に未払い医療費を支出しています。(※補てん先は医療機関であり、患者本人ではない。)

しかし、1億7,000万円を超える未収金に対し、補てん額はごく一部であり、病院側の経営リスクを全て解消するものではありません。この公的な補てん事業は、あくまで「現場の善意」と「行政の最低限の支援」の狭間で機能している応急処置に過ぎないと言えます。

新政権の責任:「共生のルール」を法整備せよ

人手不足対策を推し進める新政権は、外国人材の受け入れを拡大する中で、この医療費未払い問題を「共生社会が内包するコスト」として、政治的に解決する責任を負います。

日本人であれば、不慮の病人を助けるのは「仕方ない」ことかもしれません。しかし、それが永続的な公的負担や、ルールを守る国民の不公平感につながるならば、もはや「仕方ない」で済まされる問題ではありません。

高市総裁が掲げる「ルールや法律を守れない外国人に対しては厳しく対応する」という姿勢は、まさにこの問題に適用されるべきです。新政権が目指すべきは、以下の法整備と体制構築です。

  1. 不法滞在者への厳格な対応と送還の加速: ルールを破って滞在している外国人に対しては、医療費未払いを含めた問題に対し、厳格な法執行を行い、送還を迅速に進める体制を強化する。
  2. 国際的な医療費支払いシステムの構築: 外国人労働者や留学生に対し、入国時に必要な医療保険の加入を徹底させ、未払いが発生しないよう国際的な仕組みを構築・強化する。
  3. 公的補てんの財源と公平性の確保: 補てん事業を都レベルではなく国レベルの責任とし、その財源を確保するとともに、保険料を支払っている国民の不公平感を解消するため、制度の透明化と適正化を図る。

共生社会の実現は、外国人材の労働力に依存せざるを得ない日本の未来にとって不可欠です。しかし、それは「ルールと秩序」の上で成り立たなければなりません。新政権には、現場の悲鳴に応える、実効性のある法整備と政策決定が求められています。