近年、AI技術の進化は目覚ましく、多くの専門職が「AIに置き換えられるのではないか」という議論に直面しています。入国ビザ申請を専門とする行政書士も例外ではありません。ビザ申請は、書類作成や複雑な手続きが伴うため、一見するとAIに代替されやすい業務のように思えます。
しかし、結論から言うと、ビザ申請業務のすべてがAIに置き換わることはありません。AIは行政書士の仕事を奪うのではなく、むしろその役割を根本から変える強力なツールとなるでしょう。
この記事では、ビザ申請業務のどの部分がAIに置き換わり、どの部分が人間にしかできないのかを具体的に解説します。
この記事の3つのポイント
- ポイント1:AIは書類の自動作成やチェックなど、定型業務を代替し、効率を劇的に高めます。
- ポイント2:申請者の背景を深く理解し、最適な戦略を立てる「コンサルティング」は人間にしかできません。
- ポイント3:AIは行政書士の仕事を奪うのではなく、より高度な専門業務に集中するための「パートナー」となります。
目次
AIが代替できる「単純作業」
AIは、特定のルールに基づいて処理を行う定型的な作業を得意とします。ビザ申請業務の中でも、特に以下の部分はAIによって効率化されるでしょう。
1. 書類の自動作成とデータ入力
申請書類の多くは、氏名、生年月日、住所、職歴といった基本情報の入力で構成されています。AI-OCR(光学的文字認識)技術を使えば、パスポートや戸籍謄本をスキャンするだけで、必要な情報を自動で読み取り、申請フォームに転記できます。これにより、手作業による入力ミスを防ぎ、大幅な時間短縮が可能です。
2. 書類チェックと不備の自動検出
申請には、住民票や納税証明書など、多くの添付書類が必要です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入すれば、提出された書類に漏れがないか、有効期限が切れていないかといった形式的なチェックを自動で行うことができます。過去の膨大な申請データをAIが学習することで、不許可につながる可能性のある「危険信号」を事前に検知し、申請者に警告することも可能になります。
AIに代替できない「創造的な仕事」
一方で、AIには代替が難しい高度な判断力や人間的なコミュニケーションが求められる業務も数多くあります。これこそが、行政書士が今後、専門家として価値を発揮していく領域です。
1. コンサルティングと戦略立案
入国ビザの申請は、単に書類を提出するだけでは終わりません。申請者一人ひとりの背景や目的を深く理解し、最適な在留資格を選択するコンサルティング能力が不可欠です。AIは、申請者の「なぜ日本で働きたいのか」「将来的なキャリアプランはどうか」といった複雑な背景を汲み取って、個別のストーリーを作り上げることはできません。
2. 理由書の作成
入管に提出する理由書は、申請者の人柄や日本での貢献意欲を説得力のある文章で伝えることが重要です。これは単なる事実の羅列ではなく、論理的な説得力が求められる創造的な作業です。AIが文章を生成することはできますが、申請者の心情や具体的なエピソードを盛り込み、審査官の心に響く理由書を書くのは、人間にしかできない仕事です。
3. 入管との交渉とトラブル対応
申請中に審査官から疑義が生じた場合、追加資料の提出や口頭での説明を通じて状況を改善する交渉力が求められます。予期せぬトラブルが発生した際の対応も、人対人のコミュニケーションに依存する部分であり、AIには不可能です。
AIは「脅威」ではなく「最強のパートナー」
入国ビザ申請における行政書士の業務は、AIの導入によって「書類作成代行業者」から「専門的なコンサルタント」へと役割が変化していくでしょう。
AIが単純な作業を代替することで、行政書士は本来の専門性である複雑なケースの分析や申請者との深いコミュニケーションに時間を割けるようになります。これにより、サービスの付加価値を高め、より質の高い支援を提供できるようになります。
AIは行政書士の仕事を奪うのではなく、その生産性と専門性を高めるための最強のパートナーなのです。









