日本経済の現場と、国民の意識の間に、大きなギャップが生まれています。 先日実施されたロイター企業調査では、資本金10億円以上の日本企業の約8割が外国人を雇用していることが明らかになりました。その主な理由として挙げられたのは「人手不足」に加えて、「海外事業の強化」や「専門知識・技術の確保」といった、より積極的なものでした。
一方で、今年の参議院選挙で外国人材を巡る議論が主要な争点となり、一部には「日本人ファースト」を掲げる動きも見られました。こうした国民感情を反映するように、各種世論調査では、外国人材の増加に慎重な意見が根強く存在します。
企業は「労働力」として外国人材を不可欠と捉える一方で、個人は「社会の変化」として外国人材の増加に不安を感じている。このギャップは、一体どこから生まれているのでしょうか。
「合理的な判断」と「感情的な不安」の衝突
このギャップの背景には、企業が持つ「合理的な判断」と、個人が抱く「感情的な不安」という二つの異なる視点があります。
企業にとって、少子高齢化が進む日本において、外国人材の雇用は生存戦略そのものです。
- 人手不足の解消:ビルクリーニングや介護、製造業など、人手不足が深刻な分野では、外国人材なしには事業が成り立ちません。
- ビジネスチャンスの拡大:海外展開を目指す企業にとって、外国人材は市場への足がかりであり、グローバルな競争力を高めるための重要な「リソース」です。
企業は、データや経営判断に基づき、外国人材の受け入れを「必要不可欠」と結論付けています。今回のロイター調査で、参院選後も96%の企業が採用姿勢を変えないと回答したのは、この合理性が揺るがないことの表れです。
一方で、多くの個人にとって、外国人材の増加は、日々の生活環境の変化として直接的に感じられます。
- 文化や習慣の違い:ゴミ出しのルール、騒音問題など、異なる文化や習慣に起因する摩擦。
- 社会保障への懸念:「自分たちの年金や医療がどうなるのか」といった、社会制度への不安。
- 治安への懸念:一部の犯罪報道などからくる、漠然とした不安。
こうした不安は、データや合理性だけでは解決できず、感情的な側面が強く影響します。
日本社会が直面する「未来の選択」
私たちは今、大きな選択を迫られています。
企業が合理的に追求する「成長」や「安定」を国民が享受するためには、外国人材の力が必要です。しかし、その結果生じる社会の変化を、国民全体でどう受け入れ、乗り越えていくかという課題が残されています。
このギャップを埋めるためには、企業や政府が、外国人材を「労働力」としてだけでなく、「共に社会を創るパートナー」として、文化や生活面でのサポートを強化していく必要があります。また、個人も、不安の根源を正しく理解し、対話を通じて解決していく努力が求められます。
企業と個人の間に横たわるこのギャップは、日本がこれから多文化共生社会として発展していく上で、避けては通れない問いかけと言えるでしょう。
出典
ロイター 2025年9月11日