外国人労働者の受け入れ拡大を目指す「特定技能」制度。しかし、その根幹を揺るがす事態が進行している。本来、排除されるはずの海外「送り出し機関」の介在が、ベトナムやカンボジアからの受け入れで義務化されつつあるのだ。これは、過去の技能実習制度で深刻化した「中間搾取」という負の遺産を、再び繰り返す危険性を孕んでいる。
技能実習制度では、送り出し機関による高額な手数料徴収や、劣悪な労働環境が常態化し、失踪者が後を絶たなかった。借金をして来日した実習生が、返済のために失踪するという悲劇は、枚挙にいとまがない。特定技能制度は、こうした問題を解消し、外国人労働者の権利を保護するために創設されたはずだ。しかし、今回の送り出し機関の介在義務化は、その理念を根本から覆すものと言わざるを得ない。
政府は、二国間の協力覚書に基づく措置であると説明する。しかし、過去の技能実習制度の教訓を忘れたかのような安易な制度設計は、外国人労働者の人権を軽視していると言わざるを得ない。コロナ禍に乗じた制度の骨抜きとの批判も、的外れではないだろう。
送り出し機関の介在は、再び外国人労働者を「搾取」の対象とする可能性を高める。高額な手数料は、彼らの経済的負担を増大させ、精神的な重圧となるでしょう。借金返済のために失踪を選ぶ労働者が増えれば、日本社会への不信感は増幅し、国際的な批判も免れないはずです。
過去の歴史が示すように、外国人労働者の人権を軽視した制度は、必ず破綻します。彼らは、単なる労働力ではなく、私たちと同じ人間であり、尊重されるべき権利を持つべき存在です。政府は、目先の労働力不足解消に目を奪われることなく、外国人労働者の人権保護を最優先に考えるべきでしょう。
今後の日本がとるべき対応
具体的な対策として、まず送り出し機関の透明化と規制強化が急務です。手数料の上限設定や、悪質な業者の排除など、厳格な規制を設ける必要があります。次に、直接雇用を原則とする制度の見直しが求められます。送り出し機関の介在を最小限に抑え、企業と労働者の直接契約を促進するべきです。さらに、労働環境の改善と相談体制の充実も欠かせません。外国人労働者が安心して働ける環境を整備し、相談窓口を充実させることが重要です。また、二国間協議の強化を通じて、送り出し国の政府と連携し、制度の改善や悪質業者の排除に取り組むべきでしょう。そして最後に、日本社会全体の意識改革が不可欠です。外国人労働者を「共に働く仲間」として受け入れ、差別や偏見をなくすための啓発活動を強化していく必要があります。
外国人労働者の受け入れは、日本の未来を左右する重要な課題です。過去の過ちを繰り返すことなく、彼らが安心して働ける環境を整備し、共に豊かな社会を築くために、政府、企業、そして国民一人ひとりが真摯に向き合う必要があるのではないでしょうか。