はじめに
政府の特定技能外国人受け入れ拡大の方針に基づき、イオン株式会社は2023年から2030年度までにグループ企業を通じて4,000人の特定技能外国人を受け入れる計画を進めています。本記事では、日本企業の中でも先導的な活動を行っているイオン株式会社の取り組みと特定技能の採用の可能性について紹介します。
イオンの取り組み
イオン株式会社は、食品スーパーでの総菜製造や施設の清掃などに特定技能外国人を配置し、会社全体の人手不足の解消を目指しています。
受け入れ目標: 2030年度までにグループ企業で4,000人
主な業務: 食品スーパーでの総菜加工、施設清掃など
現在雇用している特定技能外国人: 約1,500人(主に食品スーパー向け加工食品の製造工場)
2023年11月には、施設管理を担うイオンディライトがインドネシア政府の支援を受け、初めて16人の特定技能外国人を採用しました。また、同年にはビルクリーニング分野の特定技能が追加されたことを受け、イオンモールなどの商業施設やホテル、病院などでの清掃業務も行っています。
イオンは、受け入れた特定技能外国人が日本で安心して生活できるよう、住居の提供やレクリエーションの企画など、生活面でのサポートも行っています。具体的には、2〜3人で生活できるシェアハウスを提供したり、休日に観光地を巡るレクリエーションを企画したりしています。イオングループ全体で、就労面だけでなく生活面でも適切な支援を行い、「外国人が働きやすい環境」を作ることを目指しています。
人手不足の現状
小売業や外食産業では、人手不足が深刻な問題となっています。帝国データバンクの4月の調査によると、正社員が不足していると答えた企業の割合は、外食産業で57%に達しました。非正規社員においても、外食産業で75%、飲食料品小売業で57%が不足しており、多くの企業が人手不足に直面しています。
他の企業の事例
このような状況を改善するため、多くの企業が特定技能外国人の受け入れに期待を寄せています。
セブン&アイ・ホールディングス: グループ共通の総菜加工工場で約240人の特定技能外国人を雇用
ハイデイ日高: 2024年の特定技能外国人の採用数を前年の6.5倍の26人に増加(新卒社員数の4分の1に相当)
ワタミ株式会社: 2024年3月時点で特定技能外国人の人数が前年同月比4割増の227人
これらの企業では、特定技能外国人を長期的な戦力として育成するため、店長や総括マネージャー候補としての採用も視野に入れています。
定着支援の重要性
採用した外国人に長く働いてもらうためには、働きやすい環境づくりが不可欠です。
ハイデイ日高では、特定技能外国人も日本人正社員と同等の待遇を受け、店舗での接客や調理業務を担当するほか、店長候補や本社勤務にも登用されます。また、必要な際には在留資格申請の支援が受けられる環境も整っています。
日本経済研究センターの試算によれば、ベトナムやタイ、インドネシアの現地給与は2032年までに日本の給与水準の50%を超える見込みです。そのため、今後は技術習得の支援だけでなく、社員寮の提供や在留中の生活支援など、企業側の投資がますます重要になってきます。
まとめ:小売業における外国人雇用の意義と重要性
小売業において外国人を雇用することは、単なる人手不足の解消以上の意義と重要性を持っています。
- 深刻な人手不足の緩和と事業継続への貢献:
日本の小売業は、少子高齢化による労働人口の減少により、深刻な人手不足に直面しています。特に、店舗の運営や商品加工の現場ではその傾向が顕著です。特定技能外国人を受け入れることは、こうした人手不足を緩和し、店舗運営を維持し、事業継続を可能にするための重要な手段となります。イオンをはじめとする企業の積極的な受け入れは、この喫緊の課題に対する具体的な解決策を示唆しています。 - 多様な視点の導入とサービス向上:
異なる文化や価値観を持つ外国人人材の参画は、組織に新たな視点をもたらし、既存の業務プロセスやサービスを見直すきっかけとなります。外国人ならではの顧客対応や商品提案は、多様化する顧客ニーズへの対応力を高め、新たな顧客層の開拓にも繋がる可能性があります。グローバル化が進む現代において、多様な人材の活用は競争力強化の重要な要素となります。 - 国際的な労働市場における競争力の維持:
世界的に労働力の移動が活発化する中で、日本企業が優秀な外国人人材を確保するためには、魅力的な労働環境を提供する必要があります。イオンが行うような手厚い生活支援やキャリアパスの提示は、日本が国際的な労働市場において魅力的な就職先としての地位を維持するために不可欠です。外国人労働者が安心して長く働ける環境を整備することは、企業の持続的な成長にも繋がります。 - 地域社会の活性化と国際交流の促進:
外国人労働者の受け入れは、地域社会に新たな活気をもたらし、国際交流を促進する側面も持ち合わせています。異なる文化を持つ人々が共に働くことは、相互理解を深め、多文化共生社会の実現に向けた一歩となります。外国人労働者が地域社会に溶け込み、活躍できる環境を整えることは、社会全体の多様性を高める上で重要な意義を持ちます。
このように、小売業における外国人雇用は、人手不足の解消という直接的な効果だけでなく、企業の競争力強化、国際的なプレゼンスの向上、そして多文化共生社会の実現にも貢献する重要な取り組みと言えるでしょう。イオンの先進的な事例は、今後の小売業界における外国人雇用の可能性と重要性を示唆しています。