外国人労働者数が初めて250万人を突破した。厚生労働省が2026年1月に発表した「外国人雇用状況」の届出状況(令和7年10月末時点)によると、日本で働く外国人は257万1,037人に達し、前年から26万8,450人(11.7%)の増加となりました。注目すべきは、その受入れの現場です。外国人労働者の56%は従業員99人以下の事業所で働いており、事業所数でみると30人未満の小規模事業所が全体の63.1%を占めています。日本の外国人雇用を支えているのは、大企業ではなく中小・零細企業なのです。しかし、その現実は「活用の最前線」であると同時に、支援体制の脆弱さという構造的課題を抱えた「依存の最前線」でもあります。
データが示す「中小企業依存」の構造
令和7年10月末時点の届出状況を事業所規模別にみると、外国人を雇用する37万1,215事業所のうち、従業員30人未満の事業所が63.1%と圧倒的多数を占めます。30人から99人の事業所を加えると、99人以下の事業所が全体の約8割に達します。外国人労働者数ベースでも、99人以下の事業所で働く外国人が全体の56%を占めており、中小企業が日本の外国人雇用の中核を担っていることが鮮明になっています。
| 事業所規模 | 事業所数の割合 | 外国人労働者数の割合 |
| 30人未満 | 63.1% | 約36% |
| 30〜99人 | 約17% | 約20% |
| 100〜499人 | 約10% | 約23% |
| 500人以上 | 約10% | 約21% |
| 99人以下 計 | 約80% | 56% |
出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)をもとに作成
一方で東京商工リサーチの調査によれば、企業全体の78.2%は外国人を1人も直接雇用していません。中小企業に限ると79.1%が雇用ゼロです。つまり、外国人雇用は中小企業全体に広く普及しているわけではなく、受け入れている一部の中小企業に負担が集中しているのが実態です。
なぜ中小企業に集中するのか
中小企業への外国人労働者の集中には、複数の構造的要因があります。最大の背景は、深刻な人手不足です。東京商工リサーチの調査によると、中小企業が外国人を雇用する理由として「人手不足への対応」が76.8%と圧倒的に多く、国際化やダイバーシティ推進といった前向きな動機は少数にとどまります。
産業別にみると、外国人労働者が最も多い製造業は63万人に達し、全体の約25%を占めています。特に食品加工や部品製造など、地方の中小工場が多い分野で外国人への依存度が高い傾向があります。医療・福祉分野は前年比25.6%増と急伸しており、介護事業所の多くは小規模です。建設業も16.1%増で、職人不足に直面する中小の建設会社が技能実習生や特定技能外国人を積極的に受け入れています。
こうした産業では、日本人の採用が年々困難になっており、もはや外国人材なしでは事業の継続すら危ぶまれる状況に追い込まれています。大企業との採用競争で不利な中小企業にとって、外国人材は「戦略的選択」というよりも「生存のための必然」となっているのです。
受入れ後の「運用コスト」が本丸
中小企業の外国人雇用における最大の課題は、採用そのものではなく、受入れ後の運用にあります。厚生労働省の令和6年外国人雇用実態調査では、外国人を雇用する事業所が抱える課題として「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」が43.9%で最多、次いで「在留資格の申請等の事務負担が面倒・煩雑」が24.7%と続きました。
日本政策金融公庫の調査でも、外国人雇用企業の76.0%が「何らかの困りごとがある」と回答しています。一方で75.6%が外国人従業員の生活に関する支援を実施しており、具体的には「社宅や寮、借り上げ住宅の提供」(55.8%)や「家具・家電の貸与・譲渡」(52.3%)といった手厚い対応をしています。人事部門を持たない小規模事業所にとって、これらの管理業務は経営者や現場責任者の肩に直接のしかかる重荷です。
在留資格の管理は特に深刻です。ビザの更新手続き、転職時の届出、家族の帯同に関する手続きなど、入管法に関する専門知識が求められます。手続きのミスは不法就労につながるリスクもあり、中小企業にとっての心理的・事務的負担は決して小さくありません。多くの企業が登録支援機関や行政書士に業務を委託していますが、その費用も経営を圧迫する一因となっています。
定着に成功する企業の共通点
困難な環境にありながらも、外国人材の定着と活躍に成功している中小企業には、いくつかの共通点が見られます。
農業法人の有限会社高儀農場(フルーツトマト・イチゴ栽培)は、技能実習修了生を継続的に雇用し、農作業の品質管理から出荷準備まで外国人従業員が中核を担う体制を構築しました。繁忙期の作業品質が安定し、売上増加につなげています。成功の鍵は、修了生という「経験者」を活用したことで教育コストを削減しつつ、長期的な人材計画を可能にした点です。
産業用ポンプメーカーの本多機工株式会社は、2008年からチュニジア人をはじめ延べ14人の外国人材を採用し、海外顧客への母語対応を実現しました。結果として海外売上比率は6割にまで拡大しています。人手不足対応にとどまらず、外国人材の語学力と現地知識を事業戦略に組み込んだ好例です。
プラスチック製品製造のフルヤ工業株式会社は、18年にわたりベトナム人材を受け入れ続け、金型技術者を現地から招聘して家族とともに育成する長期的な人材戦略を実践しています。同社では外国人技術者が設計・開発の要となるまで成長を遂げました。
これらの成功企業に共通するのは、外国人を「一時的な労働力」ではなく「育成すべき人材」として位置づけている点です。業務手順の標準化、やさしい日本語の活用、キャリアパスの明示といった取り組みを通じて、属人的な対応に頼らない仕組みをつくり上げています。日本政策金融公庫の同調査では、外国人雇用企業の67.2%が採用に「満足」または「やや満足」と回答しており、適切な受入れ体制を整えれば中小企業でも成果を出せることを示しています。
育成就労制度がもたらす「選ばれる企業」への転換
2027年4月に施行される育成就労制度は、現行の技能実習制度に代わる新たな在留資格として、中小企業の外国人雇用のあり方を根本から変える可能性を秘めています。政府は2年間で42万6,200人の受入れ枠を設定し、17分野を対象とする方針です。
中小企業にとって最大のインパクトは、従来の技能実習では原則認められていなかった転籍(転職)が一定条件のもとで可能になることです。これは労働者の権利保護という観点では大きな前進ですが、小規模事業所にとっては、コストをかけて育成した人材が大企業や都市部に流出するリスクを意味します。「安い労働力を囲い込む」という発想はもはや通用せず、外国人材にとっても「選ばれる企業」であることが求められる時代に入ります。
この構造転換に対応するため、自治体や支援機関の役割がこれまで以上に重要になっています。東京都は中小企業向けに外国人材受入支援事業を展開し、セミナー開催や専門家派遣を実施しています。名古屋市も外国人材雇用支援事業として、採用から定着までの一貫したサポート体制を整えました。経済産業省は製造業における外国人材受入れ支援事業を進め、業界横断的な技能評価の仕組みづくりに取り組んでいます。
日本の外国人雇用は、制度対応力の弱い中小企業に依存しているという構造的な危うさを抱えています。外国人材の受入れを一過性のコスト対応ではなく、持続可能な経営基盤として機能させるためには、個々の企業努力だけでなく、業務の標準化、在留資格管理の簡素化、地域ぐるみの生活支援体制の構築が不可欠です。外国人材を「マネジメントできる企業」こそが、人口減少時代を乗り越える力を手にすることになるでしょう。










