日本の介護・建設現場等において、ミャンマー人材は今や欠かせない存在となっています。ベトナムに次ぐ送り出し数を誇り、その勤勉さと日本語習得能力の高さは、多くの日本企業から高く評価されています。
しかし、2026年1月25日に実施されたミャンマー総選挙を経て、彼らの受け入れ環境は新たな局面を迎えました。「選挙実施により政情が安定し、渡航手続きが円滑化する」という楽観的な見方もありますが、実態はより複雑化していると言えます。
軍事政権の影響力が継続する中、今後の雇用管理において留意すべき構造的な変化と、日本企業が講じるべき対策について解説します。
徴兵制と出国規制による「採用リードタイム」の長期化
今回の選挙結果が軍主導の体制を追認する形となったことで、若年層に対する統制は今後も継続される見通しです。特に日本企業が直面している課題は、2024年から施行されている「徴兵制」と、それに伴う「出国制限」の二重の壁です。
労働力流出を懸念する政権側は、働き盛りである若者の出国許可(OWIC)の発給審査を厳格化しています。これまで数ヶ月で完了していた入国手続きが、「内定から入国まで半年以上」を要するケースも常態化しており、この傾向は選挙後も続くと見られます。
企業側は、従来の「欠員が出たから補充する」という短期的な採用計画ではなく、半年〜1年先を見据えた余裕のある要員計画への転換を余儀なくされています。
為替と送金義務による「実質賃金」の目減り
もう一つの重大な懸念は、ミャンマー国外就労者に課されている「給与の25%を正規ルートで母国へ送金させる義務」の継続です。
問題の本質は、軍事政権が定める公定レートと実勢レートの乖離にあります。市場価値よりも不利なレートで強制的に両替・送金させられることで、労働者が実質的に受け取れる価値が目減りしてしまうのです。
この状況下では、単に日本円の給与額を提示するだけでは、人材の生活を守れない恐れがあります。そこで重要となるのが、給与以外の側面で可処分所得(手元に残るお金)を確保する「生活防衛型の支援」です。
【表:従来の雇用条件と今後求められる「生活防衛型」支援の比較】
| 項目 | 従来の一般的な雇用 | 今後求められる「生活防衛型」雇用 |
| 給与支給 | 基本給の支払いのみ | 基本給 + 送金損失を考慮した手当等 |
| 住居支援 | 自己負担または一部補助 | 社宅提供・空き家活用による住居費圧縮 |
| 生活支援 | 特になし | 食事補助、Wi-Fi環境の無償提供など |
| 企業の狙い | 労働力の確保 | 実質的な手取り額の維持と離職防止 |
このように、現金を増やすことが難しい場合でも、福利厚生を厚くすることで、彼らの日本での生活基盤を安定させることが、結果として定着率の向上につながります。
国際情勢の変化と「選ばれる国」への競争
外交面では、中国やロシアが今回の選挙結果を支持する姿勢を見せており、ミャンマーとの経済的な結びつきを強めています。
これまでは「海外就労=日本」という強いブランド力がありましたが、今後は中国など近隣国への労働移動のハードルが下がる可能性も否定できません。手続きの煩雑さや円安の影響もあり、日本が「唯一の選択肢」ではなくなりつつあるのが現実です。
こうした中で日本企業が優位性を保つためには、他国にはない明確なキャリアパスを提示することが肝要です。
具体的には、「特定技能2号」による永住権取得への道筋や、新NISA等の制度を活用した資産形成の支援など、中長期的な視点で「日本で働くことの人生におけるメリット」を可視化する必要があります。
不透明な情勢下こそ「待つ」姿勢から「育てる」覚悟へ
ミャンマー国内の情勢は依然として流動的ですが、日本の現場に対する彼らの信頼と期待は、決して失われていません。
情勢の安定をただ待つのではなく、不安定な状況にある彼らをいかに安全に受け入れ、生活を守り抜くことができるか。2026年の人材獲得競争においては、こうした企業の「覚悟」と「伴走体制」の有無が、優秀な人材を確保できるかどうかの分水嶺となるでしょう。









