【現場の声】ミャンマー人介護士が評価される背景 文化・信条・環境から読み解く

ミャンマー国旗

「入居者への声かけが丁寧で、場の空気がやわらいだ気がする」
介護現場では、ミャンマー出身の職員について、こうした感想が語られることがあります。ただし、国籍だけで人の資質が決まるわけではありません。評価の背景には、個人の性格や経験に加えて、文化的な価値観、学習環境、そして母国情勢による心理的負荷など、複数の要因が重なっている可能性があります。

本稿では、現場でしばしば挙げられる「なぜそう見えるのか」を、断定を避けつつ整理します。


相手に配慮する価値観「アーナーデ(ah-nar-de)」

ミャンマー文化の説明でよく触れられる概念に「アーナーデ(ah-nar-de)」があります。直訳しにくい言葉ですが、相手に負担をかけないように遠慮し、気持ちを害さないように配慮する感覚として紹介されています。

介護は、相手の体調や気分に合わせて声量や言い回しを微調整する場面が多い仕事です。こうした「配慮の習慣」が、丁寧なコミュニケーションとして受け止められている可能性があります。


上座部仏教と「功徳(kutho)」の考え方

ミャンマーは仏教徒が多数を占める国だと、国勢調査の分析でも示されています(2014年国勢調査では仏教徒が87.9%)。
同国の社会を理解するうえで、「功徳(kutho)」を積むという価値観が重要だ、とする研究や報告もあります。

もちろん、信条がそのまま職務態度に直結するとは限りません。しかし、「人の役に立つ行い」に意味を見いだしやすい環境で育った人が、ケアの仕事にやりがいを感じやすい、という説明は一定の説得力があります。


日本語コミュニケーションは「仕組み」で伸びやすくなる

「ミャンマー人は日本語が早い」といった言い方は、根拠が曖昧になりがちです。ここは一歩引いて、言語面で言われることの多い要素だけを確認します。
ミャンマー語(ビルマ語)は、基本語順が主語‐目的語‐動詞(SOV)であると説明されます。 日本語も語順はSOVが基本です。語順が近い言語同士では、初期の文構造の理解がしやすい場合があります。

ただし、介護現場で重要なのは語順よりも、定型表現や報連相の習慣、専門語彙の反復です。結局は、

  • 業務で使う日本語を「場面別テンプレ」に落とす
  • 伝わらない場面を記録し、次回の言い換えを決める
  • 面談やOJTを通訳・やさしい日本語で補助する

といった「学習の設計」があるかどうかが大きいはずです。


母国情勢がもたらす心理的負荷と企業側の配慮

近年のミャンマーでは徴兵制の運用が発表・強化され、対象年齢の若年層に不安が広がったと報じられています。
また、海外就労者に送金を求める運用が強まっているという報道もあります(少なくとも「給与の一定割合を公式ルートで送金する」方針が伝えられている)。

こうした事情は、本人や家族にとってストレス要因になりえます。だからこそ、「明るく見える」「粘り強い」といった評価がある一方で、実際には不安を抱え込んでいる可能性もあります。企業側は、働きぶりの評価だけでなく、生活面・相談面の支えを整える必要があります。


介護現場で語られやすい評価と企業が整えたい支援(整理表)

観点現場で語られやすいこと背景として考えられる点企業側の工夫
対人姿勢声かけが丁寧、雰囲気がやわらぐ相手に配慮する「アーナーデ」の文化やさしい日本語の定型文を整備、ロールプレイ
仕事観ケアに意味を見いだす人がいる仏教社会で「功徳(kutho)」が重視されるとの指摘感謝が伝わる評価制度、成功体験の共有
日本語現場会話が安定しやすい場合があるミャンマー語はSOVとされ、日本語と語順が近い場面別フレーズ集、報連相テンプレ、OJT記録
メンタル明るく見える一方で不安を抱えることも徴兵制運用の報道、送金ルール強化の報道相談窓口、手続き同行、緊急時連絡網


おわりに:国籍の評価ではなく、「活躍する条件」を整える

ミャンマー人介護士が評価される、という話題は確かに耳目を集めます。しかし、新聞記事として大切なのは「称賛の断定」ではなく、活躍が生まれる条件を冷静に言語化することです。
現場の評価は、文化的な配慮の型、信条が与える意味づけ、言語習得の設計、そして母国情勢がもたらす不安といった要素が絡み合って立ち上がってきます。

受け入れ側がすべきことは、「良い人材が来るか」を祈ることではありません。誰が来ても力を発揮できるように、教育・通訳・生活支援・相談体制を整え、資格取得やキャリアパスまで含めて伴走することです。
その整備ができている職場ほど、国籍を問わず、人が定着し、ケアの質も安定していきます。