ポスト・ベトナムの行方 — ミャンマー, インドネシア, ネパール…次のメイン「人材調達国」はどこか?

羽田空港に着陸しようとしているジャンボジェット


円安・賃金上昇で「ベトナム一強」が終焉。2025年以降の戦略的・多角的ルート構築を考える

日本の外国人雇用の現場を長らく支えてきたのはベトナム人材でした。しかし今、その潮流が劇的に変わりつつあります。円安の影響に加え、ベトナム国内の経済発展に伴う賃金上昇により、かつてのような「とりあえずベトナム」という選択肢が通用しなくなっているのです。

これからの「ポスト・ベトナム」時代において、企業はどの国に注目すべきか。今、急速に存在感を増しているミャンマー、インドネシア、ネパールの3カ国を中心に、人材調達の多角化戦略を解説します。


なぜ今、人材調達の「多角化」が必要なのか?

これまで日本の技能実習・特定技能の半数近くを占めていたベトナムですが、以下の理由から採用難易度が上がっています。

  • 経済格差の縮小: ベトナム国内の給与水準が上がり、わざわざ日本へ出稼ぎに行くメリットが薄れている。
  • 競合国の台頭: 韓国、台湾、オーストラリアなど、日本よりも高待遇を提供する国々がベトナム人材の争奪戦を繰り広げている。
  • カントリーリスク: 特定の国に依存しすぎると、その国の政策変更や経済状況によって、一気に人材供給がストップするリスクがある。


🇲🇲 ミャンマー:圧倒的な「言語の壁」の低さと、背水の陣の意欲

現在、採用現場で最も「即戦力に近い」と評価されているのがミャンマーです。

「文法が同じ」という言語学的チート: ミャンマー語(ビルマ語)は、日本語と同じく「主語―目的語―動詞(SOV)」の語順を持ち、助詞(〜は、〜が、〜を等)の概念まで共通しています。他国の労働者が日本語学習に苦労する中、ミャンマー人材は「単語の置き換え」だけで会話がほぼ成立するため、N4・N3レベルへの到達スピードが他国に比べ圧倒的に早いのが特徴です。

国内情勢が生む勤勉さと「覚悟」: 2021年の政情不安以降、ミャンマー国内の経済は停滞し、若者にとって日本での就労は「家族を支える一筋の希望」という側面を強めています。この「背水の陣」とも言える覚悟が、高い離職防止効果と、仕事に対する極めて真面目な態度に繋がっています。

2025年の最新動向: ミャンマー政府による海外就労許可(OWICカード)の発給制限や、送り出し機関への人数制限など、手続きの不透明さはリスクとして残ります。しかし、それを差し引いても「言葉の通じやすさ」を重視する介護や外食業分野での需要は右肩上がりです。


🇮🇩 インドネシア:巨大な労働余力と「交通」の親和性

2億8千万人という圧倒的な人口規模を誇るインドネシアは、日本にとって「量・質ともに最大の供給源」となりつつあります。

「左側通行・右ハンドル」がもたらす即戦力: 2024年に特定技能の対象に追加された「自動車運送業」において、インドネシアは最有力候補です。日本と同じ左側通行の環境で育っているため、ドライバーや建設機械オペレーターとして採用した際、交通ルールや空間認識の違和感が極めて少なく、安全教育のコストを大幅に抑制できます。

「人口ボーナス」による若年層の厚み: ベトナムが急速に少子高齢化へ向かう中、インドネシアは労働力人口が爆発的に増える「人口ボーナス期」の真っ只中にあります。政府機関(BP2MI)が直接送り出しに関与するケースも多く、国を挙げたデジタル人材や高度技能者の育成が進んでいます。

文化の受容: イスラム教への配慮(礼拝や食事)は不可欠ですが、逆に言えば「ルールを厳格に守る」という宗教的規律をビジネスの「規律遵守」に転換できる企業では、非常に忠実で結束力の強いチームを構築できます。


🇳🇵 ネパール:高地が育んだ「タフネス」と「コミュニティの結束」

近年、特定技能試験の受験者数が急増しているのがネパールです。彼らは「第3の勢力」として、特に肉体労働や接客の現場で存在感を示しています。

厳しい環境を生き抜く身体能力: 高地出身者が多く、心肺機能や身体的なタフさが際立っています。真夏の建設現場や、重い荷物を扱う物流倉庫など、体力を要する過酷な環境下でも高いパフォーマンスを維持できる点が、現場責任者から高く評価されています。

英語力とリピーターを生む接客性: ネパールは教育課程で英語が重視されており、若者の多くが英語を解します。インバウンド需要の回復により、地方の温泉旅館やホテルでは、日本語と英語の両方を操るネパール人材が「外国人観光客への対応」という付加価値を生み出しています。

強固なリファラル(紹介)文化: 日本国内に既に強固なネパール人コミュニティが存在するため、1人優秀な人材を採用・定着させると、その親戚や友人を呼び寄せる「縁故採用」が機能しやすいのも特徴です。定着率の高さに悩む企業にとって、この「コミュニティの絆」は大きな武器になります。


送り出し国比較・早見表

国名日本語習得身体的タフさ文化的親和性主な注目職種
ミャンマー◎ (語順が同じ)介護、外食、接客
インドネシア〇 (要宗教配慮)運送、建設、製造
ネパール△〜〇農業、建設、外食



結びに:2025年以降の勝者は「国を分散させる」

一つの国に依存するリスクは、かつての中国、そして現在のベトナムが証明しています。これからの人事戦略は、「コミュニケーションが必要な部署にはミャンマー人を」「現場作業や運転にはインドネシア人を」といった、業務内容に基づいたポートフォリオ(多角化)の構築が不可欠です。

送り出し国の文化を尊重し、彼らが「日本に来てよかった」と思える環境を整えること。その「企業としての器」こそが、激化する国際的な人材争奪戦において、最終的な勝利を決定づける要因となります。

「ポスト・ベトナム」の時代は、多文化共生を企業の成長エンジンに変えられるかどうかの試金石となるでしょう。