自然災害と外国人従業員 企業の防災体制を問い直す3月11日

あべのハルカスからみた風景

3月11日が巡ってくるたび、日本社会は自然災害という現実を改めて思い起こす。2011年の東日本大震災から15年。地震、津波、台風、豪雨といった自然災害は、この国にとって避けて通れない存在である。そして今、日本の職場にはかつてとは異なる特徴がある。多くの外国人従業員が働いているという事実だ。

厚生労働省の統計によれば、日本で働く外国人労働者は2025年10月時点で257万人を超え、過去最多となった。製造業、建設業、外食、介護、物流など、日本の社会基盤を支える現場で外国人の存在は不可欠になっている。企業が自然災害を語るとき、そこには必ず外国人従業員の安全という視点が含まれる時代になった。

しかし、この問題はまだ十分に議論されているとは言い難い。自然災害に関する日本の情報は、日本語で提供されることが圧倒的に多い。避難指示、防災無線、自治体の広報など、多くが日本語を前提としている。日本人にとっては当たり前の情報環境でも、日本語に不慣れな外国人にとっては重大な障壁になる。

実際、過去の災害では、情報格差が安全格差につながる例が指摘されてきた。2011年の東日本大震災でも、外国人住民が避難情報を理解できず、適切な行動を取れなかったケースが報告されている。2016年の熊本地震、2018年の西日本豪雨でも同様の課題が浮き彫りになった。言語の壁は、災害時には命の壁になり得る。

企業の現場でも同じ問題が起きる。例えば、突然の地震が発生したとき、日本人社員は机の下に身を隠す、ガスを止める、避難経路を確認するなど、長年の教育や経験から自然に行動する。しかし、日本に来て間もない外国人従業員は、何が正しい行動なのか分からないことが多い。地震そのものをほとんど経験したことがない人も少なくない。

この差は、企業の安全管理にとって無視できない問題である。外国人従業員が増えた現在、災害対応は「日本人向けのマニュアル」に少し英語を付け加えれば済む話ではない。むしろ、外国人がいる前提で防災体制を再設計する必要がある。

例えば、避難マニュアルを多言語で整備すること。地震や津波の基本的な行動を入社時研修で説明すること。緊急時に誰が誰をサポートするのかを事前に決めておくこと。これらは特別な取り組みではなく、企業の安全配慮義務の延長線にあるものだ。

重要なのは、防災を単なる「リスク対策」としてではなく、外国人雇用の質を高める要素として捉える視点である。外国人従業員にとって、日本は自然災害の多い国だという認識が広がれば、働く国としての魅力にも影響する。逆に言えば、「災害が起きてもこの会社は守ってくれる」という信頼は、定着率を高める大きな要素になる。

東日本大震災から15年が過ぎ、日本の防災意識は大きく変わった。しかし、社会構造もまた変わっている。かつては日本人中心だった職場が、今では多国籍の労働力によって支えられている。災害対策もまた、その現実に合わせて進化させなければならない。

自然災害は避けられない。だが、その被害は備えによって大きく変わる。外国人従業員を含めた防災体制を整えることは、企業の責任であると同時に、日本社会が多様な人材と共に生きていく覚悟を示すことでもある。3月11日は、その問いを企業に突きつける日でもある。