モラハラ、セクハラは企業の存立を揺るがす。外国人社員に対する事案であれば、言語や在留資格、支援体制の問題が重なり、被害の深刻化や表面化の遅れを招きやすい。現場で報告が上がったとき、曖昧な「注意」や当事者間の「和解」に流すのは最悪の対応である。企業は雇用管理上の義務として、予防と対応の仕組みを整え、発覚時には迅速に是正しなければならない。
法的枠組みは明確だ。セクハラについては男女雇用機会均等法が、相談に応じ適切に対応する体制整備などの防止措置を事業主に求めている。相談したこと等を理由とする不利益取り扱いの禁止も、厚労省資料で整理されている。 いわゆるパワハラ(優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え就業環境を害するもの)についても、労働施策総合推進法に基づき、方針の明確化、相談体制整備、事後対応などの措置が事業主の義務となっている。中小企業も対象である。
問題は「発覚した後」。基本は、被害者の安全確保、事実確認、再発防止の三点を同時に走らせることに尽きる。外国人社員の場合、相談窓口が日本語のみだったり、上司が通訳役を兼ねたりすると、申告自体が困難になる。通訳の手配や、第三者性のある窓口の用意は初動の前提である。必要なら外部の弁護士や社外窓口を使い、当事者と利害関係のあるラインから切り離して調査するべきだ。
発覚時の実務は、次の順で組み立てるとよい。ポイントは「会社が握りつぶさない」「被害者に不利益を与えない」「行為者を現場から切り離す」だ。厚労省は、相談したこと等を理由に不利益取り扱いをしてはならない旨の周知も含め、事業主に措置を求めている。
対応の要点を表にまとめる。
| フェーズ | 企業がやるべきこと | 根拠・参照先 |
|---|---|---|
| 初動(即日〜48時間) | 被害申告の受理と安全確保、行為者と被害者の分離、証拠の保全(メール、チャット、勤怠、監視カメラ等)、通訳・第三者窓口の手配 | 事業主の防止措置義務(セクハラ・パワハラ)(mhlw.go.jp) |
| 調査(1〜2週間) | ヒアリング手順の統一、複数名で聴取、記録化、秘密保持、報復防止の明示、必要に応じ外部専門家の関与 | 不利益取扱い禁止、相談体制整備の考え方(mhlw.go.jp) |
| 是正(調査後速やかに) | 就業規則に基づく懲戒・配置転換等、管理職評価の見直し、再発防止策(研修・監督強化・相談導線の改善) | パワハラ指針(方針明確化、周知、事後の迅速適切な対応等)(mhlw.go.jp) |
| 支援(並行して継続) | 被害者の健康対応(産業医・医療機関)、就労継続支援、必要なら社外相談窓口の案内 | 法務省の人権相談窓口(女性の人権含む)(moj.go.jp) |
| 在留・支援(特定技能等の場合) | 支援計画・苦情相談体制の実効性確認、社内で抱え込まず公的窓口も活用、在留資格を盾にした不利益取扱いの禁止を多言語で周知 | 特定技能の支援(受入れ機関の支援)(moj.go.jp)/FRESC案内(moj.go.jp)/不利益取扱い禁止の周知(厚労省)(no-harassment.mhlw.go.jp) |
さらに、外国人雇用企業として見落としがちな論点が二つある。一つは、特定技能など支援を伴う在留資格の場合、相談・苦情に適切に対応する体制が制度上も重視される点だ。受入れ機関は支援計画を作成し、安定的・円滑な活動を支える枠組みを整えることが求められている。 事案がハラスメントであれば、単なる労務問題ではなく「人権」「安全配慮」「定着支援」の失敗として扱う必要がある。外国人在留支援センター(FRESC)は、外国人からの相談対応や、外国人を雇用したい企業の相談にも対応する政府の窓口として案内されている。社内で抱え込まず、こうした公的窓口も活用したい。
もう一つは、企業が「在留資格」を盾に沈黙を強いるリスクである。被害者が「訴えたら雇止めや更新に響く」と恐れれば、申告は止まる。だからこそ、相談したこと等を理由に不利益取り扱いをしないという原則を、やさしい日本語や母語で明文化し、周知する必要がある。
再発防止は、研修だけでは足りない。強調したいのは、ハラスメントを「現場の性格問題」で終わらせず、ガバナンス課題として設計し直すことである。管理職の評価項目に「ハラスメント対応」「部下の定着」「相談対応の適正」を組み込み、相談が上がった件数ではなく、初動の速さと是正の質で評価する。外国人社員が多い職場では、通訳費用や社外窓口の契約をコストではなくリスク低減投資として位置づけるべきだ。
人材獲得競争が厳しい時代、ハラスメントは採用と定着を同時に損なう。発覚後の対応で企業の本気度は透けて見える。被害者を守り、事実を見極め、加害を許さず、報復を防ぐ。厚労省の指針が求める基本動作を、外国人社員にも届く形に翻訳して実装できるかが、外国人雇用企業としての適格性を分ける。










