【特集】配慮から共生へ:ラマダンから考える「選ばれる企業」の異文化マネジメント

インドネシア人介護人材

2026年2月中旬、イスラム教の神聖な月である「ラマダン」が始まりました。日中の飲食を断つこの1カ月間は、イスラム教徒(ムスリム)の従業員を抱える企業にとって、異文化理解と社内体制の柔軟性が問われる重要な試金石となります。

技能実習制度から「育成就労制度」への移行がこれから本格化し、外国人材の獲得競争が激しさを増す現在、企業には単なる労働力の確保ではなく、多様な背景を持つ人材が定着し活躍できる「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の実践が求められています。本特集では、現在進行形であるラマダンへの対応を切り口に、日本企業が外国人雇用において直面する課題と、これからの共生モデルを探ります。


信仰への理解が強固な信頼関係を生む

ラマダン期間中の最大の課題は、従業員の健康管理と業務の安全性確保です。日の出から日没まで水を含む一切の飲食が制限されるため、特に体力を使う現場作業では、脱水症状や集中力の低下による労働災害のリスクが高まります。

しかし、これを「リスク」とだけ捉えるのは早計です。ムスリムにとってラマダンは、信仰心を深め、自己を律する喜びと連帯感に満ちた特別な期間です。企業側がこの宗教的背景を理解し、歩み寄る姿勢を見せることが、従業員との強固な信頼関係を築く最大のチャンスにもなります。


現場で直面する課題と「共生」へのアクション

以下の表は、ラマダン期間中に企業が直面しやすい現場の課題と、具体的な対応策の例です。

現場の課題具体的な対応策・工夫の例期待される効果
身体的負担・脱水への懸念業務量の調整、こまめな小休憩の導入、涼しい場所での作業配置労働災害の防止、従業員の安心感醸成
休憩時間のミスマッチ昼休憩を短縮し、その分を日没後の食事(イフタール)や早退に充てるシフト変更柔軟な働き方の実現、モチベーション維持
礼拝スペースの確保会議室の空き時間貸し出し、簡易パーテーションによる専用スペースの設置心理的安全性の確保、職場への帰属意識向上
日本人従業員との関係性社内報や朝礼でのラマダンに関する周知、周囲の理解を促す勉強会の実施社内のコミュニケーション活性化、無意識の偏見の解消


一律のルールより「個別の対話」を

これらの対応策を講じる上で最も重要なのは、経営層や管理職による「一方的な決定」を避けることです。同じムスリムであっても、国籍や個人の信仰の度合い、その日の体調によって必要なサポートは異なります。「宗教上のルールだから」と一律に扱うのではなく、「あなた自身はどう働きたいか、何に困っているか」を個別にヒアリングする対話のプロセスこそが、真のインクルージョンを生み出します。

ある製造業の現場では、ラマダンに入る前に日本人管理者とムスリム従業員が面談を行い、日没の時間に合わせた特別シフトを共同で作成しました。また、別のサービス業では、日本人従業員がラマダンの意味を学ぶ機会を設けたことで、「日中は食べ物の話題を控える」「重労働を率先して代わる」といった自然な配慮が現場レベルで生まれています。


「選ばれる企業」へのアップデート

こうした企業の真摯な姿勢は、外国人労働者のコミュニティやSNSを通じて母国にも瞬く間に共有されます。「あの会社は私たちの文化を尊重してくれる」という評判は、採用市場における何よりのブランド力となり、優秀な人材の定着へと直結します。

外国人雇用は今、「ルールを教えて適応させる」段階から、「互いの違いを前提に、新しい職場のスタンダードを共に創る」段階へと進化しています。今年のラマダンは、あなたの会社が「選ばれる企業」へとアップデートするための、絶好の契機となるはずです。