外国人材の転職は、知人の紹介や人材会社経由が中心だと捉えられがちです。もっとも近年は、母国語で情報交換できるSNSコミュニティが、求人情報や職場の評判を流通させる場として存在感を増しています。実際、特定技能の求人情報や外国人向けの仕事情報を扱うFacebookグループは数多く存在しています。
企業側にとって厄介なのは、転職活動が必ずしも表に出てこない点です。求人サイトの応募履歴では見えなくても、SNSのグループ内で情報収集し、個別メッセージで誘いを受け、静かに次の職場を決めていく。そうした動きが起こり得ます。重要なのは、SNSを「監視する」ことではなく、社内に不満や不安が滞留しない構造をつくることです。
目次
なぜSNS経由の転職が起きやすいのか
SNSコミュニティが機能する理由は、単純に「求人があるから」だけではありません。学術研究でも、移住者がSNSを生活・就労のインフラとして使い、情報やつながりを獲得していく様子が論じられています。
現場目線で整理すると、ポイントは次の3つです。
- 口コミが母国語で共有される
給与の内訳、残業代の扱い、寮の有無や住み心地、人間関係など、求人票だけでは分からない情報が母国語で流通します。受け手にとって理解コストが低く、信頼しやすい情報になります。 - 「個別誘導」が容易
グループ投稿から個別メッセージへ移り、条件提示や面接設定が進むケースも起こり得ます。企業が気づく頃には、本人の意思が固まっていることがあります。 - 制度変更が心理に影響する
育成就労制度では、本人意向による転籍が一定要件のもとで認められる方向で制度設計が示されています。
「いずれ動けるなら、より良い条件へ」という情報交換が活発になるのは自然な流れです。
「SNS映え」より大切なこと 写真より先に日常の納得感をつくる
SNSでは、社内イベントの写真や楽しそうな雰囲気が拡散されやすいのは事実です。ただ、離職の引き金になるのは、派手な出来事ではなく、日常の小さな不満が放置されることです。
たとえば、説明が難しくて我慢している、相談相手が見つからない、評価の基準が分からない、寮の困りごとを言い出せない。こうした「言えない・伝わらない」が積み重なると、SNSは転職情報の入口になります。
逆に言えば、社内で納得感が積み上がっている職場では、SNS上の噂話に振り回されにくくなります。外の情報に触れても、「自分の職場の実情」を自分の言葉で説明できる状態ができるからです。
企業が整えたい社内コミュニケーション:3つの要点
ここからは、個人情報の扱いに踏み込み過ぎず、現場で実装しやすい打ち手に絞って整理します。
要点1 One on One面談を「やさしい日本語」で実施する
例えば月1回、one on one面談を設けて一対一で外国人社員の声に耳を傾ける場を設ける。15分でも構いません。大事なのは長さより、継続性と安心感です。
通訳の手配が難しい場合は、やさしい日本語と翻訳ツールを併用し、「困っていること」「続けたいこと」「やめたいこと」を定型質問で拾います。面談の目的は説得ではなく、早期発見です。
要点2 キャリアと評価を「見える化」して、誤解を減らす
昇給、資格支援、担当業務の広がり、評価の観点を、紙1枚でよいので図にします。育成就労制度を見据えるなら、転籍が話題になりやすいからこそ、「この会社で積み上がるもの」を具体化する意味が増します。
要点3 社内の情報発信は「推奨」ではなく「素材提供」にする
「あなたのSNSに投稿して」と求めると、負担や監視に見えやすくなります。そうではなく、社内イベントや研修の写真を共有し、本人が使いたいときに使える素材を渡す。会社の価値観を押し付けず、本人の裁量を尊重する設計が無難です。
ひと目で分かるSNS転職の要因と社内の打ち手
| SNS側で起きやすいこと | 本質的な要因 | 会社側の打ち手(現実的な範囲) |
|---|---|---|
| 母国語で職場の評判が回る | 相談が社内で完結しない | One on One面談の定期化、相談窓口の一本化 |
| 個別メッセージで誘いが来る | 不満が蓄積し、比較したくなる | 不満の早期検知、改善の見える化 |
| 制度変更が話題になる | 将来像が見えない | キャリア・評価基準の可視化 |
| 噂が拡散する | 公式情報が届いていない | 会社からの多言語・やさしい日本語で情報を周知 |
まとめ:SNSを止めるのではなく社内で「言える」状態をつくる
SNSコミュニティは、外国人材にとって生活と就労の情報インフラになり得ます。
だからこそ、企業が取るべき対応は、SNSを遠ざけることではありません。社内に、安心して相談できる回路があり、評価と将来像が説明でき、困りごとが放置されない。そうした「言える職場」をつくることが、結果として静かな離職を減らします。
まずは、面談の頻度を上げ、質問を定型化し、改善を小さく回す。派手さはなくても、これがいちばん確実なSNS時代の離職対策になります。










