外国人社員の給与口座が、ある日突然使いにくくなる。こうした相談が、支援現場や企業の総務部門で増えています。背景にあるのは、金融機関に求められるマネーロンダリング対策(AML/CFT)の強化と、在留期限の確認運用の厳格化です。
警察庁(JAFIC)「事務連絡(2024年12月24日付)」は、在留期間が満了した後の預貯金口座からの現金出金や他口座への振込について、金融機関が「なりすまし等の疑い」に厳格に対処する必要性を整理し、関係省庁・金融機関に周知を求めています。
その後、在留期限の届出がない場合に取引が制限され得ることを注意喚起するリーフレットも公表されています。
重要なのは、企業側が「銀行手続きは本人任せ」と割り切ってしまうと、給与支払い後に社員の生活が止まり、結果的に職場側の負担が跳ね返ってくる点です。以下では、2026年に目立ってきた現場のつまずきポイントと、企業が取り得る現実的な対策を整理します。
目次
2026年に何が変わりつつあるのか
従来、銀行からの連絡は郵送や窓口案内が中心でした。しかし近年は、ATMやアプリなど「本人が日常的に触れるチャネル」で在留期限の更新を促す仕組みが広がっています。
たとえば、ゆうちょ銀行ではセブン銀行ATMの仕組みを活用し、取引時に在留期限に関する案内を表示して手続きへ誘導する「ATMお知らせ」を2026年1月19日から提供開始(予定)と公表しています(+Connectの一部)。
また、七十七銀行は、在留期限が経過した場合にATMや窓口での払出・振込などを制限し得ることを示したうえで、在留カードの届出手続きにセブン銀行ATMを用いる導線(2026年2月16日から)を案内しています。
ここで押さえるべき点は、「入管庁と銀行が直接データ連携して一律に凍結する」といった単純な構図ではなく、金融機関が保有する顧客情報(在留期限等)の更新が間に合わないと、規程・法令対応の一環として“取引制限”が起き得る、という実務です。実際、在留期間満了日の翌日0時以降に取引制限を開始すると明記する金融機関の案内も見られます。
企業が直面しやすいトラブル
取引制限が現場で問題化しやすいのは、次のような形で「給与」と直結するからです。
社員側では、口座に入金はされているのにATMで引き出せない、振込ができないといった不安が先に立ちます。家賃・食費・通信費が払えず、生活が一度に不安定になります。企業側では、問い合わせ対応、事情確認、場合によっては前払い等の緊急対応が必要になり、総務・経理の負担が跳ね上がります。加えて、在留手続きの管理が不十分だった場合には、雇用管理上のリスクが顕在化します。
ひと目で分かる「起きやすい事象」と備え(簡易表)
| 何が起きるか | きっかけ | 現場の困りごと | 企業ができる備え |
|---|---|---|---|
| ATM出金・振込などの取引制限 | 銀行側の登録情報上、在留期限が経過 | 「給料は入ったのに引き出せない」 | 期限3か月前から在留カード更新・届出をセットで周知 |
| 在留カード更新済みでも制限が続く | 在留カード更新後カードの提示・届出が未了 | 解除までに日数がかかる場合 | 在留カード更新後は速やかに銀行へ届出、手続き方法を案内 |
| 通知が本人に届かない | 郵送物の見落とし等 | 期限管理が後手に回る | 郵送任せにせず、会社からも定期リマインド |
| 手続き導線が複雑 | 窓口が平日中心、言語の壁 | 本人が先延ばししがち | 登録情報更新をアプリ/ATMでできる手段がある銀行は選択肢として共有 |
凍結・取引制限を避けるために、企業が今すぐ整えたい運用
対策は難しくありません。ポイントは「期限管理」と「在留カード更新後の届出」を、会社のルーチンに落とし込むことです。
第一に、在留期限の3か月前を目安に、会社として一斉に在留カード更新をリマインドする仕組みを作ります。対象者に個別連絡を入れるだけでも、見落としは大きく減ります。
第二に、更新が終わったら「入管で終わり」ではなく、「銀行への届出までがセット」だと明確に伝えます。更新後の在留カードを提示していれば制限がかからない、という趣旨を明記する金融機関の案内もあります。
第三に、本人が在留カード更新申請中で結果待ちの場合に備え、申請状況を示せる資料(オンライン申請の受付通知など)を、本人がすぐ提示できるようにしておくことが有効です。警察庁の事務連絡は、在留期間満了後の取引を「なりすまし等の疑い」として厳格に扱う枠組みを示しており、金融機関側が“確認できる材料”を求めやすい構造にあります。
企業としては、本人に「申請中であることを説明できる準備」を促すだけでも、混乱の予防になります。
期限管理は生活支援でもありコンプライアンスでもある
在留期限の更新と銀行手続きの行き違いは、本人にとっては生活の停止を意味し、企業にとっては職場運営の混乱に直結します。取引制限の運用は、警察庁の整理や金融機関の規程対応を背景に、今後も緩む方向には考えにくいのが現実です。
2026年は、通知の出し方や手続き導線が「郵送中心」から「ATM・デジタル導線」へと広がる転換期でもあります。ゆうちょ銀行の「ATMお知らせ」のように、日常の取引の中で更新案内に触れる仕組みも始まります。
企業側はこの流れを前提に、在留期限のリマインド、更新後の届出、必要書類の準備という基本動作を、あらかじめ整えておくことが肝要です。社員にとっては安心材料となり、企業にとってはトラブル対応コストの削減につながります。










