高市早苗政権が誕生し、「外国人への視線を厳しくする」「国益と社会の調和を重視する」という方向性が示される中、日本の労働市場、特に介護分野の現実は、政治の理念とはかけ離れた道を突き進んでいます。
群馬県大泉町の特別養護老人ホーム「あいの花」では、介護職員35人のうち11人、実に約3分の1が外国人材です(毎日新聞2025年10月28日)。施設長の木間氏が「外国人がいてくれて助かっている」と語るように、この数字こそが、日本の介護現場が直面する「不可避の未来」を象徴しています。
本稿では、統計データが示す構造的な人材不足を分析し、介護現場が外国人材に頼らざるを得ない現実の深刻さを掘り下げます。
突出する介護の「売り手市場」:有効求人倍率4.08倍の衝撃
介護現場における人材不足の深刻さは、厚生労働省が公表する有効求人倍率という統計データに、目を疑うほどの形で現れています。
| 職種 | 2009年度 有効求人倍率 | 2024年度 有効求人倍率 | 2024年度 全職種倍率 |
| 介護関係職種 | 1.33倍 | 4.08倍 | — |
| 全職種計 | 0.47倍 | 1.14倍 | 1.14倍 |
- 介護の倍率が4倍超: 2024年度の介護職種の有効求人倍率は4.08倍に達しており、これは求職者1人に対して4件以上の求人があるという極端な売り手市場であることを示します。
- 全職種との比較: 全職種の平均(1.14倍)と比較しても、介護職種の倍率は約3.6倍と突出しており、日本人が集まりにくい状況が深刻化していることがわかります。
- 採用困難が9割: アンケートでも、介護職員が不足している施設の86.6%がその理由を「採用が困難」と答えており、企業努力や待遇改善だけでは埋まらない、構造的な人材のパイプの細さが露呈しています。
このデータは、日本人介護職員の「採用の限界」を明確に示しています。国内の人材確保が構造的に不可能な以上、介護施設は事実上、外国人材に頼る以外の選択肢がない状態に追い込まれているのです。
「選別」よりも「確保」が優先される現場の論理
高市政権の掲げる「外国人材の選別」や「慎重な受け入れ」は、国益と社会秩序を守る上で重要な視点です。しかし、介護現場は、「今日、誰が利用者の身体を支えるのか」という切実な問題に直面しています。
群馬県大泉町の事例のように、施設が8年前の「外国人1人」から「外国人11人」へと急拡大させた背景には、「募集をかけても日本人が集まらない」という、市場原理に基づく冷徹な現実があります。
- 経営リスクの回避: 介護職員が不足すれば、入居定員を埋めることができず、施設の経営は悪化します。外国人材は、この「経営リスク」を回避し、事業を継続するための生命線となっています。
- 受け入れ制度の成熟: 技能実習、そして特定技能制度の分野拡充により、外国人材を「採用し、育て、定着させる」ための制度的なインフラが、過去8年間で徐々に整備されてきました。この制度的な成熟が、現場の採用強化を後押ししています。
不可避な「3分の1時代」へ:共生社会のコストを考える
介護現場における外国人職員の割合が3分の1、あるいはそれ以上に高まることは、単なる数字の変化ではなく、日本の共生社会が不可避的に次のステージへ進むことを意味します。
新政権が目指す「ルール厳格化」の方向性は正しいものの、現場のニーズを無視した急激な抑制は、介護施設の倒産、ひいては高齢者への介護サービス供給の危機につながります。
したがって、新政権が取るべき政策は、「外国人の受け入れを抑制すること」ではなく、「増加する外国人介護職員を、いかに日本社会と調和させ、質の高いサービスを維持させるか」という課題に焦点を当てるべきです。
先に論じた医療費未払い問題のように、外国人材の受け入れには社会的なコストと摩擦が伴います。しかし、統計データが示す通り、外国人材なしに日本の介護サービスは立ち行かないのが現実です。
高市政権は、「日本の文化や社会の調和」を求めるならば、その調和のコストとルール整備こそを、国家の責任として担う必要があります。外国人介護士「3分の1」という未来は、すでに統計によって予言された、避けることのできない現実なのです。









