およそ30年。外国人技能実習制度は、「開発途上地域への技能移転を通じた国際貢献」という大義の看板を掲げながら、その実態を日本の社会に深く根付かせました。そして今、制度は「育成就労」へと看板を架け替えようとしています。私たちはこの節目に、技能実習制度が世に残したものを、その美辞麗句を抜きにして、極めてシビアな視点から評価する必要があります。
「国際貢献」という欺瞞
結論から言えば、技能実習制度の最大の「成果」は、日本の人手不足の穴埋めであり、「国際貢献」は、それに都合の良い建前として機能しました。
特に、国内で敬遠されがちな建設、食品製造、農業、介護といった分野において、実習生は「安価で使いやすい労働力」として不可欠な存在となりました。制度がなければ存続が危ぶまれた中小・零細企業が数多くあったことは事実です。この点において、制度は国内経済の維持という実利に大きく貢献しました。
しかし、これは同時に、深刻な罪を生み出しました。
人権侵害の温床となった構造的な欠陥
技能実習制度は、実習生が職を変える自由を制限し、在留資格と雇用を強く結びつけるという構造的な欠陥を内包していました。これにより、実習生は、不当な低賃金や劣悪な労働環境に置かれても、声を上げにくい極めて脆弱な立場に立たされました。
高額な手数料を送り出し機関に支払い、借金を背負って来日する実習生を、一部の受け入れ企業や監理団体が悪用した結果、強制労働や人権侵害の報告が後を絶ちませんでした。実習生の失踪は、彼らが置かれた絶望的な状況を物語る何よりの証拠です。
国際社会からは、この制度が「人身取引の温床」であると厳しく批判されました。国際貢献どころか、日本の国際的な信用を毀損したという負の遺産を残したのです。
制度が残した功と罪の重み
もちろん、全てが負の側面ばかりではありません。一部の優良な企業では、熱意ある指導のもとで真の技術移転が行われ、帰国後のキャリアに活かされているケースも存在します。また、日本での生活経験や規律の習得が、母国での活躍の土台となった実習生もいるでしょう。
しかし、これらの個別の「功」は、制度全体に内在した構造的な「罪」の重さに釣り合うものではありませんでした。結果的に、技能実習制度は、日本が抱える労働力の問題を、外国人への負担と人権侵害によって解決しようとした「安易な解決策」であったと言わざるを得ません。
結び:看板の架け替えで終わらせてはならない
技能実習制度の失敗は、「国際貢献」という建前を捨てきれず、労働力確保という実態を曖昧にしたことにあります。育成就労制度への移行は、人権保護の強化と、人材確保の必要性を明確化する一歩として評価できます。
しかし、制度の名称を変えるだけでは、何一つ解決しません。重要なのは、現場から不正を排除し、実習生(これからは特定技能外国人)を対等な労働力として扱うという、受け入れ側の意識の変革です。
私たちは、技能実習という過去の負の遺産から目を背けることなく、真に国際社会と共生できる公正な労働環境を築けるのか。育成就労制度の真価は、これから問われます。









