先日、山梨県の人材派遣会社「スクラムヒューマンパワー」の役員らが、入管法違反の疑いで逮捕されました。農業分野で働く資格しかないインドネシア国籍の男性らを、別のクリーニング工場で働かせた容疑です。
この事件は、一見すると「人手不足を補うための柔軟な対応」と捉えられがちですが、法的には非常に重い罪です。今回の事件を教訓に、知らずに加害者とならないための法律知識と、その行為の悪質性について解説します。
知らずに犯す「不法就労助長罪」の重み
今回の事件で問われているのは、「不法就労助長罪」です。これは、就労資格を持たない外国人を雇用したり、就労資格の範囲外で働かせたりする行為を指します。
たとえ「善意」や「人手不足の解消」のためであっても、法律違反であることに変わりはありません。
- 刑罰:3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。
- 事業への影響:雇用主は事業の停止命令や行政指導を受けるリスクがあり、企業の信用は大きく失墜します。
特に、特定技能や技能実習制度では、在留資格ごとに活動できる業務範囲が厳格に定められています。今回の事件のように、農業の資格でクリーニング業をさせることは、明確な資格外活動にあたり、違法行為となります。
誤解の温床?「農業は派遣OK」の落とし穴
今回の事件が特に複雑なのは、特定技能制度において、農業分野では例外的に人材派遣が認められているという背景があるからです。
- 原則:特定技能制度では、労働者の雇用形態は直接雇用が原則であり、人材派遣は認められていません。
- 例外:ただし、農業と漁業の分野に限り、繁忙期と閑散期の差が大きいため、人材派遣が特例として認められています。
この「派遣が認められている」という例外規定が、「農業の仕事がなければ他の仕事に派遣してもいい」という誤った解釈を生む温床になった可能性があります。しかし、派遣が認められているのはあくまで同一分野内、つまり農業分野の繁忙期の応援に限られます。異なる分野であるクリーニング工場に派遣することは、明確な法律違反であり、今回の事件の核心を突く問題点です。
悪質なケースは「計画的な犯罪」
今回の報道では、容疑者が「農業の仕事がない時はクリーニング業で働かせられると思っていた」と供述し、容疑を一部否認しているとされています。
しかし、もしこれが意図的な行為であったならば、その罪はより悪質です。
報道によると、この派遣会社は、およそ120人の外国人を違法に派遣し、7,000万円もの利益を上げていたとされています。
- 外国人材を食い物にする構造: 農業分野の仕事が少ない時期があることを悪用し、外国人の在留資格を偽って別の産業に安価な労働力として供給していた可能性があります。これは、真面目に働く外国人材の生活を不安定にするだけでなく、正規の労働条件で働く外国人材や日本人労働者の賃金相場にも悪影響を与えます。
- 制度の悪用: 日本が人手不足解消のために設けた特定技能や技能実習制度の趣旨を根本から歪める行為です。このような違法行為が横行すれば、制度そのものに対する社会の信頼が失われ、真剣に外国人雇用に取り組む企業全体の足枷となります。
知っておくべき法律の整理
外国人雇用に関わる皆様は、以下の点を必ず確認してください。
- 在留カードの確認: 雇用する外国人の在留カードに記載された「在留資格」と「就労可否」を必ず確認してください。
- 資格外活動許可の確認: 資格外活動が許可されているか、またその範囲がどこまでかを指定書や在留カードの裏面等で確認してください。
- 活動内容の厳守: 特定技能や技能実習生は、在留資格で認められた分野の業務以外で働かせることはできません。安易な気持ちで他業務をさせれば、不法就労助長罪に問われるリスクがあります。
この事件は、違法な外国人雇用がもたらすリスクを改めて私たちに警告しています。知らなかったでは済まされない時代です。コンプライアンスを徹底し、健全な外国人雇用を推進していきましょう。