現在、外国人材の受け入れが急増する中、特定技能ビザの審査は膨大な量となり、処理が滞っているという課題が指摘されています。申請書類は一人あたり100ページに及ぶことも珍しくなく、職員の負担は増え続けています。
しかし、もしこの膨大な事務作業をAIが担うとしたら、何がどう変わるのでしょうか?
この記事では、AI技術が入管の審査業務をどのように効率化し、ビザ審査の“渋滞”を解消できるのか、技術的な側面から解説します。
この記事の3つのポイント
- ポイント1:AIの導入により、書類のデータ化や形式チェック、さらには申請内容の自動照合が可能になります。
- ポイント2:AIが単純作業を代替することで、職員は面談や実態調査といった、より高度な業務に集中できます。
- ポイント3:AIは、審査の迅速化だけでなく、将来的な不正防止や審査基準の均一化にも貢献します。
AIが「審査の第一歩」を劇的に変える
AIが入管の審査プロセスに導入された場合、まず最も大きな変化が期待されるのは、申請書類の受付と初期審査の段階です。
- AI-OCRによる書類の自動データ化 特定技能の申請書類には、履歴書、給与明細、住民票など、さまざまな種類の書面が含まれます。AI-OCR(光学的文字認識)とは、紙の文字や画像データを読み取り、編集可能なデジタルテキストに変換する技術です。AI-OCRを活用すれば、これらの紙媒体の情報を自動で読み取り、データとしてシステムに登録できます。これにより、手作業での入力ミスや時間のロスがなくなります。
- RPAによる形式チェックの自動化 申請書には、記載漏れや書類の不足といった形式不備が少なくありません。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、パソコン上で行う定型的な作業を、ソフトウェアのロボットが自動で代行する技術です。RPAを導入すれば、「必須項目に記入があるか」「必要な書類がすべて添付されているか」といったチェックを自動で行い、不備のある申請は即座に申請者や行政書士に通知できます。これにより、職員は形式チェックに割かれていた膨大な時間を削減できます。
AIが「審査の核心」をサポートする
AIの活用は、単なる事務作業の自動化に留まりません。審査の核心部分においても、職員を強力にサポートします。
- データベースとの自動照合とリスク分析 AIは、申請者が提出した情報(氏名、生年月日、過去の在留履歴など)を、入管の既存データベースや他省庁のデータベースと瞬時に照合します。これにより、過去のオーバーステイや不法就労の履歴、犯罪歴などを自動で検出し、不正申請のリスクが高い案件を抽出できます。
- 自然言語処理(NLP)による申請理由の分析 申請理由書や雇用契約書は、すべてを人間が目視で確認するには時間がかかります。自然言語処理(NLP)とは、人間が使う言葉(自然言語)をコンピューターが理解し、処理する技術です。AIのNLP技術を使えば、これらの文章を解析し、申請理由に不自然な点がないか、雇用条件が法令に準拠しているかなどを自動でチェックできます。これにより、審査官はより疑義のある箇所に絞って審査を行うことが可能になります。

効率化の先にある「入管業務の高度化」
AI導入による効率化は、単に審査スピードを上げるだけではありません。
- 職員の役割の再定義: AIが単純な確認作業を代替することで、入管職員は面談や実態調査といった、より人間的な判断力やコミュニケーション能力が求められる高度な業務に集中できます。これにより、審査の質そのものが向上します。
- 審査基準の均一化: AIによる客観的なデータ分析は、審査官の主観に左右されることなく、審査基準をより均一化する効果も期待できます。これにより、申請者にとっても、より公正で透明性の高い審査が実現します。
- 将来的な不正防止: AIは、過去の不正事例を機械学習することで、新たな偽装手口や不正のパターンを検出し、未然に防ぐためのアラートを発することができます。
特定技能ビザ審査の“渋滞”という課題は、日本が外国人材と共生社会を築く上で避けては通れません。AI技術は、この課題を解決するための強力なツールとなり、入管業務の未来を根本から変える可能性を秘めているのです。