警察庁が外免切替(外国運転免許証から日本運転免許証への切り替え)の厳格化方針を固め、観光客などの短期滞在者には認めない方向で動いているのは、日本の交通安全を確保する上で当然の措置と言えるでしょう。しかし、その一方で、この厳格化が日本の経済、特に深刻な人手不足に悩む分野に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。特に、特定技能運送で日本で働こうとする外国人たちの運転免許取得機会を奪うことは、国益を損なうことになりかねません。
観光客への厳格化は歓迎すべき
今回の警察庁の方針転換の背景には、外免切替制度をめぐる国会での指摘があります。日本に住民票を持たない観光客が、ホテルなどの一時滞在場所を「居住地」として日本の運転免許を取得することの妥当性や、知識確認のための試験が簡単すぎるといった問題点が挙がっていました。実際、昨年1年間で外免切替により日本の免許を取得した外国人は6万8000人を超え過去最多となっています。
警察庁が15の国と地域を対象に調査した結果、日本のように観光客にも外免切替を認めている国はなかったという事実は重く受け止めるべきです。観光客が日本の交通ルールを十分に理解しないまま運転することは、事故のリスクを高め、日本の交通環境に混乱をもたらす可能性があります。そのため、観光客に対してはジュネーブ条約に基づく国際免許証の取得を求める方針は、交通安全の観点から極めて妥当であり、歓迎すべき措置と言えるでしょう。知識確認の問題数を10問から50問に増やし、90%以上の正答率を求めること、技能確認の採点を厳格化することも、日本の交通ルールの理解度と運転技能を確保するために必要な変更です。
特定技能運送で日本で働こうとする外国人たちの問題を一括りにするのは本末転倒
しかしながら、問題は、この厳格化の対象が観光客に留まらず、日本で長期的に働き、日本の社会を支える特定技能運送で日本で働こうとする外国人たちの免許取得まで一括りにされてしまう可能性をはらんでいる点です。
特に、昨年から導入された「特定技能」制度において、「運送」分野が追加されたことは、トラックドライバーをはじめとする物流業界の深刻な人手不足を解消するための大きな一歩として期待されています。特定技能運送で日本で働こうとする外国人たちは、日本に住民票を有し、日本での生活や労働を基盤としています。彼らが日本の運転免許を取得することは、単に個人の利便性にとどまらず、日本の産業活動を支える上で不可欠な要素となります。
例えば、特定技能「運送」で来日する外国人材は、入国後6ヶ月間の「特定活動」ビザが与えられ、その期間中に運転免許の切替を目指すことになります。もし、この期間中に「住民票の写しでの住所確認」が厳格に適用され、外免切替が認められないとなると、彼らは日本で運転免許を取得することができず、結果として職務を全うすることが困難になります。そうなれば、せっかく人手不足解消のために受け入れた特定技能ドライバーが日本で活躍できなくなり、帰国を余儀なくされるケースも出てくるでしょう。これは、深刻な人手不足に苦しむ日本の産業界にとって、まさに「国益を害する」事態と言わざるを得ません。
警察庁の方針は、あくまで「観光客などの短期滞在者には認めない」というものです。この「など」がどこまでを指すのかが重要になってきます。特定技能運送で日本で働こうとする外国人たちは、日本の住民として社会に貢献しようとしている存在であり、観光客とはその目的も、日本での滞在期間も大きく異なります。彼らを観光客と同列に扱い、外免切替の機会を奪うことは、日本の経済成長を阻害するだけでなく、外国人材の受け入れに対する国際的な信頼をも損なうことにつながりかねません。
公平性と実用性のバランスを
今回の外免切替制度の見直しは、交通安全の確保という観点からは理解できます。しかし、その一方で、日本の産業を支える外国人材が正当な手続きで運転免許を取得できるよう、制度の運用には柔軟性と公平性が求められます。
警察庁には、パブリックコメントで意見を募る中で、観光客と、住民票を持ち日本で長期的に生活・労働する特定技能運送で日本で働こうとする外国人たちとの間で、明確な区別を設けるよう、具体的な運用指針を示すことを強く求めたいです。例えば、特定技能運送で日本で働く外国人に対しては、住民票の提出に加え、在留資格や雇用契約書などを住所確認の補完書類として認めるなど、実情に即した運用を検討すべきです。
外免切替の厳格化は、日本の交通安全を向上させる上で重要な一歩です。しかし、その厳格化が、日本の経済を支える特定技能運送で日本で働こうとする外国人たちの活躍の場を奪うことになっては本末転倒です。観光客への厳格化は当然として、日本の社会に深く根ざし、人手不足解消に貢献しようとする特定技能運送で日本で働こうとする外国人たちに対しては、彼らがスムーズに日本の運転免許を取得できるような配慮が不可欠です。警察庁には、国益を見据えた、より実用的な制度改正となることを期待します。