日本の林業は今、まさに岐路に立たされています。長年にわたる従事者の高齢化と、若年層の林業離れは、現場の人手不足を極限まで深刻化させており、このままでは日本の森林が持つ多大な恩恵が失われかねません。私たちは、国土保全、水源涵養、そして地球温暖化対策といった森林の多岐にわたる機能が危うくなるという、由々しき事態に直面しているのです。こうした喫緊の課題に対処するため、2024年4月、ついに特定技能制度に林業分野が追加され、外国人材の受け入れが本格的にスタートを切りました。この制度は、日本の林業に新たな活力を吹き込み、持続可能な森林管理への道を拓くための、まさに起爆剤となることが期待されています。
特定技能制度が林業にもたらす変化
特定技能制度の導入は、日本の林業現場に待望の光明をもたらすでしょう。この新しい枠組みは、造林（苗木の生産、植え付け、下刈り、除伐、間伐、主伐といった一連の作業）、育林（枝打ち、つる切り、雪起こし、施肥、病害虫獣対策など）、そして木材の生産・加工（伐採、集材、造材、木材の乾燥・加工を含む）といった幅広い林業作業を対象としています。外国人材には、これらの作業に必要な実践的な技能と知識が求められるだけでなく、日本語能力試験N4レベル以上、あるいはそれに準ずる日本語能力が必須となります。
在留期間については、特定技能1号で最長5年間と定められていますが、これはあくまで最初のステップです。もし外国人材がさらに技能と経験を積み、特定の要件を満たせば、特定技能2号への移行が可能となり、より長期にわたって日本で林業に携わることができます。この仕組みは、外国人材が日本の林業に定着し、長期的な戦力として活躍するための道筋を示しており、日本の林業が持続的な発展を遂げる上で極めて重要な意味を持ちます。また、受け入れ側である林業事業体には、外国人材が安心して働けるよう、適切な労働環境の提供や生活支援、日本語教育の機会確保など、きめ細やかなサポート体制の整備が求められます。
深刻化する人手不足と国家的な危機
林業における人手不足は、もはや単一の産業の問題ではありません。それは、日本という国家の根幹を揺るがしかねない、広範囲に及ぶ深刻な危機へと発展しています。林野庁の調査が示すように、日本の林業従事者数は減少の一途をたどり、特に若い世代の参入が極めて少ないのが現状です。このままでは、林業を支える人材の「空白地帯」が生まれかねません。林野庁は、2030年までに現在の従事者数からさらに1万人以上の増員を目標としていますが、現在の推移を見る限り、この目標達成は極めて困難と言わざるを得ません。
もしこの人手不足が解消されなければ、日本は国家として以下のような多岐にわたる深刻な危機に直面することになります。
- 森林資源の荒廃と自然災害リスクの増大: 適切な森林管理が行き届かなくなり、放置された森林が増加すれば、森林が持つ国土保全や水源涵養といった多面的な機能が著しく低下します。これにより、土砂災害や洪水といった自然災害のリスクが大幅に高まり、国民の生命や財産が脅かされる事態を招きかねません。さらに、生物多様性の喪失や生態系の破壊といった環境問題も深刻化するでしょう。
- 木材供給の不安定化と経済的損失: 国産材の供給量が減少し続ければ、国内の木材需要を満たすために海外からの輸入にますます依存せざるを得なくなります。これは、国際的な情勢によって木材価格が高騰するリスクを常に抱えることを意味し、日本の住宅産業や木材加工業などに大きな影響を与えるでしょう。ひいては、林業そのものの衰退を招き、地方経済の停滞や雇用の減少にも直結することになります。食料自給率と同様に、木材自給率の低下は、国家の安全保障上の問題とも密接に関わってきます。
- 林業技術の継承の途絶と国際競争力の低下: 長年培われてきた林業の専門技術やノウハウは、経験豊富な熟練者から若手へと引き継がれていくものです。しかし、熟練従事者の減少と若手の不足が続けば、この貴重な技術継承のサイクルが途絶えてしまう恐れがあります。結果として、日本の林業全体の技術水準が低下し、生産性の向上や新たな技術革新が滞り、国際的な競争力を失う可能性も否定できません。
- 地域社会の衰退と地方創生の停滞: 林業は、多くの地方、特に過疎化が進む地域において、その経済や雇用を支える重要な基幹産業です。林業の衰退は、地域経済のさらなる低迷、若者の流出、人口減少の加速、そして地域コミュニティの機能不全を招きます。これは、政府が掲げる地方創生の目標達成を困難にし、東京一極集中をさらに加速させる要因となりかねません。
- 国際的な信用失墜と環境外交への影響: 森林資源の適切な管理は、国際社会における日本の環境保全への取り組みや持続可能な社会への貢献を示す重要な指標です。もし不適切な森林管理や違法伐採が国際的に問題視されれば、日本の国際的な信用は大きく損なわれ、環境外交における発言力や影響力も低下する恐れがあります。これは、地球規模の環境問題に取り組む上での日本の役割を縮小させかねない深刻な事態です。
特定技能試験の展望
特定技能試験は、日本での就労を目指す外国人材にとって、その技能と日本語能力を証明するための重要な関門です。この試験は、大きく分けて日本語能力を測る試験と、各分野で求められる技能や知識を評価する試験の二本立てで行われます。林業分野においては、日常会話や業務指示の理解に不可欠な日本語能力（日本語能力試験N4レベル以上が目安）が求められる一方、実際の林業作業に必要な技能については、日本の技能検定3級相当のレベルが基準となります。
今後の試験に関しては、制度の運用状況や現場のニーズに合わせて、様々な変更が予想されます。例えば、より効率的で公平な試験実施を目指し、試験内容や出題形式の見直しが進む可能性があります。また、より多くの外国人材が受験機会を得られるよう、日本国内だけでなく、海外での試験実施場所の拡大も期待されています。さらに、近年急速に普及しているオンライン試験の導入も検討されており、これにより遠隔地からの受験が可能になるなど、受験者の負担が大幅に軽減されることが見込まれます。
特定技能試験に関する最新かつ正確な情報は、法務省、厚生労働省といった各省庁のウェブサイトをはじめ、林野庁や関連する業界団体、そして各試験センターのウェブサイトで随時公開されます。また、全国のハローワークでも、特定技能に関する相談や情報提供が行われています。
特定技能制度は、日本の林業が直面する人手不足という喫緊の課題を解決し、持続可能な発展を遂げるための重要な鍵を握っています。外国人材の受け入れと適切な育成を通じて、日本の豊かな森林を守り、次世代へと繋いでいくために、私たち一人ひとりがこの制度の意義を理解し、その円滑な運用に協力していくことが求められています。
この新しい制度が、日本の林業にどのような未来を切り拓くのか、今後の展開にぜひご注目ください。
