近年、インターネットやSNS上で「外国人に特権がある」「日本人が損をしている」といった声を目にすることが増えました。特に外国人雇用に関わる方々の中には、こうした言説に戸惑いを感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これらの主張は本当に正しいのでしょうか?
今回は、人権を守る記者の視点から、外国人に関する「特権論」の真相と、なぜそのような誤解が生まれるのかを解説します。
目次
「特権」と誤解される主な主張とは?
まず、世間で「特権」として語られがちな主張には、どのようなものがあるのか見ていきましょう。
- 生活保護や社会保障の優遇受給 「外国人永住者や特定活動ビザの外国人が、日本の税金をほとんど納めていないのに生活保護を受けている」「日本人より優先される」といった意見です。
- 在日外国人への特別な待遇 特に「在日特権」という言葉で語られるもので、特定の税制優遇、生活保護の優先、学校への特別な補助金、あるいは犯罪における処罰の甘さなどが主張されることがあります。
- 参政権の付与 永住外国人への地方参政権付与の議論に対し、「日本人の権利を侵すものだ」として反対意見が挙がることがあります。
- 犯罪者への対応の甘さ 「外国人犯罪者には甘い」「強制送還されない」といった声も聞かれます。
これらの主張は、一部の事実を切り取ったり、あるいは全く根拠のない情報が混じっていたりすることが少なくありません。
「特権」の真実:法と実態から見る外国人支援
では、これらの主張は実際のところどうなのでしょうか? 法的な側面と実態から検証していきます。
生活保護・社会保障制度について
日本の生活保護法は、原則として日本国民を対象としています。しかし、人道的な見地から、永住者や日本人の配偶者、定住者など、特定の在留資格を持つ外国人に対しては「行政措置」として生活保護が準用されています。これは、過去の最高裁判例(昭和57年)に基づき、困窮した外国人にも最低限の生活を保障するための措置です。
「外国人だから優遇される」というのは誤解です。受給には日本人と同様に厳格な審査があり、資産や能力、扶養義務者の援助などを総合的に判断されます。日本人でも外国人でも、要件を満たさなければ受給できませんし、国籍によって受給額が変わることもありません。むしろ、在留資格によっては受給対象外となるケースも多く、外国人の方が要件が厳しい面すらあります。
在日外国人への特別な待遇(いわゆる在日特権)
「在日特権」という言葉は、主にインターネット上で拡散された、根拠のないデマや偏見に基づいています。
- 課税の優遇: 日本の税法に国籍による優遇規定はありません。居住者であれば、日本人、外国人問わず同じ税法が適用されます。
- 生活保護の優先: 上記の通り、優先はありません。
- 学校への特別な補助金: 朝鮮学校などの外国人学校は、日本の学校教育法上の「学校」ではありません。そのため、日本の私立学校への国の助成金(私学助成)の対象とはなりません。一部の地方自治体が、地域貢献や多様な教育への支援として独自の補助金を支出しているケースはありますが、これはその自治体の判断によるものであり、全国一律の「特権」ではありません。
- 犯罪における処罰の甘さ: 日本の司法制度は、国籍によって処罰を変えることはありません。犯罪を犯せば、日本人と同様に法に基づいて処罰されます。
参政権の付与
日本国憲法が定める参政権は、日本国民固有の権利です。したがって、外国人が日本の国政選挙で投票することはできません。地方参政権については、永住外国人への付与を巡る議論はありますが、現行法では付与されていません。一部の自治体で、住民投票などに参加できる条例を設けている例はありますが、これはその自治体の裁量によるもので、国レベルでの「特権」ではありません。
犯罪者への対応の甘さ
日本の刑事司法は、国籍によって処罰が左右されることはありません。ただし、外国人の場合、母国語での通訳の必要性や、文化的な背景の違いなどが考慮されることはあります。これは公正な裁判を行うための配慮であり、「甘さ」とは異なります。強制送還については、刑罰を受けた後に法務大臣の判断により行われるものであり、必ずしも送還されないわけではありません。
なぜ「外国人特権」という誤解が生まれるのか?
このような「特権論」が生まれる背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 情報不足と誤解: 上記で述べたように、制度の正確な知識がないまま、一部の事例や断片的な情報だけで判断してしまうケースです。
- 不安や不満の転嫁: 経済的な停滞や社会的な閉塞感から、外国人に対して不満や不安を向けてしまう心理があります。
- 排外主義的なプロパガンダ: 意図的に外国人への差別や偏見を煽る目的で、虚偽の情報や誇張された情報が流布されることがあります。
- メディアの報道の仕方: 特定の外国人による犯罪などが大きく報じられる一方で、一般の外国人労働者の貢献や努力が十分に伝えられないことが、イメージの偏りにつながる可能性もあります。
外国人雇用に携わる私たちにできること
外国人雇用に携わる私たちは、こうした誤解や偏見を解くために、正しい知識を持つことが何よりも重要です。
- 正確な情報の収集: 法務省、厚生労働省など、公的機関の情報を確認する習慣をつけましょう。
- 多様な視点を持つ: インターネットやSNS上の情報に安易に飛びつかず、多角的な視点から物事を捉えるように心がけましょう。
- 外国人労働者の「声」を聞く: 実際に働く外国人材の生活や直面している課題を知ることで、表面的な情報だけでは見えない現実が見えてくるはずです。
日本社会は、少子高齢化が進む中で、外国人材の力なしには成り立ちません。彼らが安心して働き、生活できる環境を整えることは、日本の未来を築く上で不可欠です。誤った情報に惑わされず、誰もが暮らしやすい共生社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることを考えていきましょう。