少子高齢化による人口減少が深刻化する日本において、外国人労働力は不可欠な存在です。彼らが日本で長期的に働き、永住への道を開くための在留資格「特定技能2号」は、まさに人手不足解消の切り札として期待されています。しかし、現実には、経験豊富な外国人労働者たちがこの「特定技能2号」の試験という難解な壁に阻まれ、その能力を十分に活かせないという現状が浮き彫りになっています。
今回、その現実を目の当たりにしたのは、北海道のある地方で農業に従事する外国人の方です。彼は、2016年に技能実習生として来日し、長年真面目に働き、その経験と知識を活かして、2019年からは「特定技能1号」の資格で、日本の農業を支えてきました。
彼は、日々の農作業に真摯に向き合い、作物の生育を見守り、質の高い農作物を育てることに情熱を注いできました。彼の勤勉さと、長年培ってきた経験は、周囲からも高く評価されています。
しかし、永住への道が開かれる「特定技能2号」の資格取得は、彼にとって容易なものではありませんでした。今年に入ってから、彼は複数回にわたって試験に挑戦しましたが、結果は無情にも不合格。
「何度も落ちてしまって…」
彼の落胆は、言葉の端々から滲み出ています。試験は、パソコン画面に表示される問題を選択肢の中から選ぶ形式。彼は、日々の業務で培った知識を頼りに、真剣に問題に向き合いました。しかし、試験終了後、どこを間違えたのか、具体的に何が足りなかったのかを知る術は限られています。届くのは正答率の通知のみ。次回の試験に向けて、どこを重点的に勉強すれば良いのか、手探りの状態が続いているのです。
「普段、実際にやっている作業とは少し違う分野の問題もあって…」
彼がそう語るように、試験の内容は、日々の業務で培った経験だけでは対応しきれない部分もあるようです。彼は、限られた時間の中で、仕事と並行して試験勉強にも励んできました。異国の地で、言葉の壁を乗り越え、生活基盤を築きながら、未来への希望を胸に努力を重ねてきた日々。その努力が、なかなか実を結ばない現実は、計り知れない苦労と葛藤を伴っているはずです。
「この地で、これからも働き続けたいんです。家族も呼びたい…」
そう語る彼の言葉には、日本での生活への強い思いと、家族への愛情が込められています。しかし、在留期限が迫る中、このまま「特定技能2号」の資格を取得できなければ、彼は日本を離れざるを得ないかもしれません。
経験豊富な外国人労働者が、このような難解な試験という高いハードルに阻まれる現状は、深刻な人手不足に悩む日本の産業界にとって大きな損失です。「特定技能2号」という、彼らの日本でのキャリアと未来を左右する資格への道が、なぜこのように険しいのか。彼の苦労は、多くの外国人労働者が直面している可能性のある問題であり、その声に耳を傾け、制度の改善を真剣に検討する必要があるのではないでしょうか。
容易な永住許可への懸念の声:社会への影響と受け入れ体制
一方で、より容易に永住を許可することに対しては、以下のような懸念の声も存在します。
- 社会保障制度への負担増: 永住者が増加することで、医療保険や年金などの社会保障制度への負担が増大するのではないかという懸念があります。
- 治安の悪化: 犯罪の増加や治安の悪化を懸念する声も一部には存在します。
- 文化摩擦の増大: 異文化間の摩擦や、日本の伝統的な価値観との衝突を危惧する声もあります。
- 労働市場への影響: 国内の労働者の賃金低下や雇用機会の減少を懸念する意見もあります。
これらの声も踏まえ、政府は慎重な姿勢で「特定技能2号」の審査基準を設定していると考えられます。
反論の声:人材不足の深刻化と国際競争の現実
しかしながら、これらの懸念に対しては、以下のような反論の声も存在します。
- 人材不足の深刻化による経済への悪影響: 労働力不足が深刻化する中で、優秀な外国人労働者の受け入れを抑制することは、経済成長の停滞を招く可能性があります。
- 国際競争における人材獲得の遅れ: 他の先進国が積極的に外国人労働者を受け入れている中、日本が閉鎖的な姿勢を続けることは、国際的な人材獲得競争で不利になる可能性があります。
- 厳格な審査による質の担保: 既存の「特定技能1号」での就労経験や、日本語能力など、一定の基準を満たした上で「特定技能2号」への道が開かれるため、安易な永住許可とは言えないという意見もあります。
解決のために必要なこと:バランスの取れた制度設計へ
この問題を解決し、真に優秀な外国人労働者が日本で活躍できる環境を整備するためには、以下のようなバランスの取れた制度設計が不可欠と考えられます。
- 試験内容の見直しと実務経験の重視: 試験の内容は、実際の業務で必要とされる技能や知識とより密接に結びつけ、実践的な能力を評価する内容へと見直すべきです。また、筆記試験のみに偏らず、これまでの就労実績や周囲からの評価など、多角的な視点から能力を評価する仕組みを導入することも検討すべきです。
- フィードバック体制の強化: 試験で不合格となった場合に、どこが不足していたのか、具体的なフィードバックが得られるような仕組みを導入することで、受験者の学習意欲を高め、次回の試験への対策をより効果的に行えるようにすべきです。
- 情報提供の充実と多言語化: 「特定技能2号」に関する情報、試験内容、合格基準などを、より分かりやすく、多言語で提供することで、受験者が事前に十分な準備を行えるように支援することが重要です。
- 在留資格取得への柔軟性の向上(慎重な検討): 経験豊富な技能実習修了者や「特定技能1号」で一定期間真面目に就労してきた外国人労働者に対しては、より柔軟な審査基準を設けるなど、在留資格取得への道筋をスムーズにする配慮も必要ですが、同時に社会保障制度や治安への影響など、懸念される点についても十分な議論と対策が必要です。
人口減少という喫緊の課題に直面する日本にとって、外国人労働者の力は不可欠です。「特定技能2号」が、真に優秀な人材が日本で活躍し続け、日本の社会に貢献するための道となるよう、制度の見直しと改善を早急に進めるべきです。一方で、国民の理解を得ながら、懸念される点についても真摯に向き合い、より持続可能な外国人材受け入れ体制を構築することが求められています。難解な試験という壁の存在意義を改めて問い直し、より実態に即した、バランスの取れた制度設計が重要となるでしょう。