大学卒業資格がなくても「技術・人文知識・国際業務」ビザは取得可能か? 実務経験が審査を左右する

高級ホテルのフロントスタッフ


実務経験による「技人国」ビザ申請の成否を分ける入管の判断基準

外国人材の採用を検討する企業にとって、在留資格「技術・人文知識・国際業務」(以下、「技人国」)ビザの取得要件は重要な関心事です。特に、大学卒業資格を持たない外国人材を雇用したい場合、「実務経験」による申請の可否が焦点となります。入管当局は、この実務経験をどのように評価し、どのような職務内容や期間が許可に繋がりやすいのでしょうか。本稿では、具体的な事例を交えながら、入管の判断基準を深掘りします。

「技人国」ビザの基本要件と実務経験の特例

「技人国」ビザの取得には、原則として、従事しようとする業務に関連する分野を専攻した大学卒業以上の学歴、またはこれと同等以上の教育を受けたことが求められます。しかし、この原則には例外があり、一定期間の実務経験がある場合も申請が可能です。具体的には、従事しようとする業務に関連する業務について、10年以上の実務経験(国際業務の場合は3年以上)を有することが要件とされています。

この「実務経験」が、大学卒業資格を持たない外国人材の雇用における鍵となります。しかし、単に経験年数を満たせば良いというものではなく、入管は申請された実務経験の内容について厳格な審査を行います。

入管が重視する「実務経験」の質と関連性

入管が実務経験を評価する上で最も重視するのは、「従事しようとする業務との関連性」「専門性・継続性」です。

1. 従事しようとする業務との関連性

申請者が日本で従事する予定の業務と、これまでに培ってきた実務経験が密接に関連しているかどうかが厳しく問われます。例えば、IT企業でシステムエンジニアとして働く予定の申請者が、過去に異なる業種で営業職として10年の経験があったとしても、その経験が直接システムエンジニアの業務に繋がるとは判断されにくいでしょう。一方で、海外でソフトウェア開発に10年間従事してきた経験があれば、日本でのシステムエンジニアとしての業務との関連性は高いと評価されます。

2. 専門性・継続性

単なる期間の長さだけでなく、その経験がどれほど専門的な知識や技術を要するものであったか、そしてどれだけ継続的にその業務に従事してきたかも重要な判断材料です。例えば、飲食店のホールスタッフとしての経験が10年あったとしても、それが「技人国」ビザの対象となる「人文知識・国際業務」の専門的な業務(通訳、翻訳、海外取引業務など)に直接繋がる専門性を持っていると判断されるのは困難です。むしろ、海外の貿易会社で国際営業として10年間、継続的に専門的な業務に従事してきた経験であれば、その専門性と継続性が高く評価される可能性が高まります。

許可・不許可事例から見えてくる判断基準

具体的な事例を比較することで、入管の判断基準がより明確になります。

不許可事例:Aさんのケース(経験年数のみを重視)

Aさんは、中国で自動車部品工場に12年間勤務していました。主な業務内容は、製造ラインでの品質管理でした。日本企業で「技術」分野の「生産管理」職として採用される予定で「技人国」ビザを申請しました。しかし、結果は不許可でした。

不許可理由の分析: Aさんの実務経験は10年を超えていましたが、入管は「生産管理」業務に必要な専門的な知識や技術が、これまでの品質管理業務から十分に培われたとは判断しませんでした。特に、日本で従事予定の「生産管理」が、より高度なマネジメント能力や計画立案能力を求める職務であった場合、単なる製造ラインでの品質チェック業務だけでは不足すると判断された可能性が高いです。

許可事例:Bさんのケース(経験の質と関連性を重視)

Bさんは、ベトナムで11年間、現地法人の会計事務所で経理・財務業務に従事していました。具体的な業務内容としては、月次・年次決算業務、税務申告書作成補助、財務諸表分析など、専門性の高い業務を幅広く経験していました。日本企業で「人文知識」分野の「経理・財務」職として採用される予定で「技人国」ビザを申請し、許可されました。

許可理由の分析: Bさんの実務経験は10年を超えており、かつ日本で従事する予定の経理・財務業務と非常に高い関連性がありました。また、月次・年次決算や税務申告など、専門的な知識と実務能力が求められる業務に継続的に従事してきた点が、入管に高く評価されました。単なる伝票整理のような一般事務ではなく、会計の専門知識を要する業務であったことが重要です。

国際業務における実務経験の特例

国際業務においては、実務経験が3年以上と短縮されます。しかし、ここでも「専門性」が問われます。

不許可事例:Cさんのケース(国際業務と判断されず)

Cさんは、フィリピンのホテルで3年間、主に日本人観光客の対応業務に従事していました。日本企業で「国際業務」分野の「通訳・翻訳」職として採用される予定で申請しましたが、不許可となりました。

不許可理由の分析: 入管は、Cさんの業務を単なる「接客」と判断し、「国際業務」の定義である「外国の文化に基盤を有する思考、感受性を必要とする業務」には該当しないと判断しました。日常会話レベルの日本語能力と接客経験だけでは、通訳・翻訳業務に必要な専門性、例えばビジネスレベルでの正確な通訳能力や専門用語の知識があると認められなかったのです。


許可事例:Dさんのケース(国際業務の専門性が評価)

Dさんは、韓国の貿易会社で3年間、日本との輸出入に関する契約書作成、取引先との交渉、市場調査などの国際営業業務に従事していました。日本企業で「国際業務」分野の「海外営業」職として採用される予定で申請し、許可されました。

許可理由の分析: Dさんの経験は、国際取引に関する専門知識と交渉能力を要するものであり、日本で従事する海外営業の業務と直接的に関連していました。単なる語学力だけでなく、国際ビジネスの実務に即した専門性が高く評価されたと言えます。

実務経験で「技人国」ビザを目指す際の留意点

大学卒業資格を持たない外国人材を「技人国」ビザで雇用する場合、以下の点に留意し、申請書類を準備することが極めて重要です。

  • 詳細な職務経歴書の作成: 過去の職務内容を具体的に記述し、日本で従事する業務との関連性、専門性、継続性を明確に示す必要があります。単なる羅列ではなく、どのような知識や技術を培ったかを具体的に説明することが求められます。
  • 客観的な証拠資料の添付: 在職証明書はもちろんのこと、給与明細、プロジェクト実績、業務で作成した成果物(個人情報に配慮しつつ)、上司からの推薦状など、実務経験の証明に繋がる客観的な資料をできる限り多く添付することが望ましいです。
  • 採用企業の業務内容との整合性: 採用企業が外国人材に任せる業務内容と、申請者の実務経験が論理的に結びつくように、採用理由書や業務内容説明書を詳細に作成する必要があります。

これらの要素を総合的に判断し、入管は実務経験に基づく「技人国」ビザの許可・不許可を決定します。外国人材の雇用を検討する企業や関係機関は、実務経験の「量」だけでなく「質」に焦点を当て、戦略的な申請準備を進めることが成功への鍵となるでしょう。