日本の基幹産業の一つである自動車産業。その根幹を支える自動車整備士が、今、深刻な人手不足に直面しています。少子高齢化による働き手の減少、そして長らく「きつい、汚い、危険」という3Kのイメージが付きまといがちだった労働環境、さらに低い賃金水準が若者の「整備士離れ」を加速させているのが現状です。
しかし、この厳しい現状に一石を投じる動きが自動車用品大手から現れました。オートバックスセブンが、インドネシアの労働省をはじめとする関係機関と手を組み、「特定技能人材」としての自動車整備士育成に乗り出すというのです。外国人雇用に携わる方々、そして日本の自動車産業の未来を憂う全ての方にとって、このニュースはまさに「待望の光」と言えるでしょう。
なぜ日本の自動車整備業界は「崖っぷち」なのか?
現在、日本の自動車整備業界では、約8万人の整備士が不足しているとも言われています。これは、全国の自動車整備工場約9万2000カ所のうち、実に8割以上の工場で人手が足りていない計算になります。主な原因は以下の通りです。
- 高齢化と引退: 自動車整備士の平均年齢は高く、ベテランの引退が相次いでいます。彼らが培ってきた知識や技術の継承が急務ですが、後継者が育ちにくい状況です。
- 若者の「整備士離れ」: 先述の3Kイメージに加え、IT化が進む自動車業界で求められる技術の高度化についていけない、あるいは賃金水準が他業種に比べて低いといった理由から、整備士を目指す若者が減少しています。専門学校の入学者数も伸び悩んでいます。
- 自動車の高性能化: 自動車は単なる機械ではなく、高度な電子制御やAIが搭載された「走るコンピュータ」へと進化しています。これにより、整備にはより専門的な知識と診断技術が求められるようになり、既存の整備士にも継続的な学習が不可欠となっています。
この人手不足が続けば、どうなるでしょうか?
真っ先に考えられるのは、車のメンテナンスが行き届かなくなることです。点検や車検の予約が取りにくくなり、待ち時間が長くなる。故障してもすぐに修理してもらえない。最悪の場合、整備不良による事故のリスクが高まる可能性も否定できません。私たちの安全なカーライフが脅かされるだけでなく、物流や公共交通機関など、車に依存する社会インフラ全体に深刻な影響を及ぼしかねないのです。
なぜ今、インドネシアなのか?
オートバックスセブンが注目したのは、ASEAN地域の中でも特に親日感情が強く、若年層の人口も豊富なインドネシアです。同社は、インドネシア国内で整備士としての資格取得に特化した独自の研修制度を新設しました。これは単に労働力を輸入するのではなく、現地で専門的なスキルを習得させ、日本の現場で即戦力として活躍できる人材を育成しようという、非常に戦略的なアプローチです。
この背景には、既存の技能実習制度が抱える課題を乗り越え、より持続可能で、双方にとってメリットのある人材供給ルートを確立したいという企業の強い意図が見て取れます。特定技能制度の活用により、より安定した雇用期間と、キャリアアップの道筋を示すことで、外国人材が安心して日本で働く環境を整備することが可能になります。
「特定技能整備士」が拓く未来
「特定技能」ビザは、特定の産業分野における人手不足を解消するために創設された在留資格です。自動車整備分野もその対象となっており、今回のオートバックスの取り組みは、この制度を最大限に活用し、日本の整備士不足問題に対する具体的な解決策を提示するものです。
インドネシアからの特定技能整備士は、日本の高度な技術とサービス品質を学ぶことで、自身のキャリアを大きく飛躍させるチャンスを得ます。また、彼らが日本の整備現場に加わることで、単なる労働力補充に留まらず、多様な文化や視点がもたらされ、職場全体の活性化にも繋がるでしょう。これは、これまで均質的だった日本の労働環境に、新たな風を吹き込む可能性を秘めています。
外国人雇用に関わる企業・個人への示唆
このオートバックスセブンの挑戦は、外国人雇用を検討している他の日本企業にとっても重要な示唆を与えます。
- 現地での育成の重要性: 単に人材を受け入れるだけでなく、現地の教育機関や政府と連携し、日本で求められるスキルを現地で育成するスキームは、質の高い人材確保に繋がります。
- 特定技能制度の活用: 技能実習制度に代わる、あるいは補完する形で、特定技能制度の活用は、中長期的な外国人材の確保において非常に有効な選択肢となります。
- 多文化共生の推進: 外国人材を迎え入れることは、職場の多様性を高め、新たな価値創造の機会を生み出します。彼らが働きやすい環境を整備することは、企業としての社会的責任でもあります。
日本の自動車整備業界は、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の波が押し寄せ、大きな変革期を迎えています。そんな中、オートバックスセブンが打ち出した外国人材との共創モデルは、単なる人手不足解消に留まらず、日本の自動車産業、そして外国人雇用を取り巻く環境そのものに、新たな可能性を示すものとなるでしょう。
この動きが、他の業界や企業にも波及し、日本全体で持続可能な人材確保のモデルが確立されることを期待せずにはいられません。外国人雇用に関わる全ての方々にとって、今後のオートバックスセブンの取り組みから目が離せません。
日本の自動車整備業界の未来は、外国人材との共生にかかっていると言っても過言ではありません。貴社のビジネスにおいて、外国人材の活用を検討する上で、今回のオートバックスの事例はどのようなヒントを与えてくれるでしょうか?