【特定技能外国人】受入企業が倒産・撤退時:法的義務と対応戦略を徹底解説

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特定技能外国人の雇用が進む中、企業の経営破綻や事業撤退といった事態は、残念ながら起こり得るリスクとして認識されています。このような不測の事態に際し、受入企業や関係者は、特定技能外国人の在留資格や生活に与える影響を最小限に抑え、適切な法的義務を履行することが求められます。

本稿では、企業が経営破綻または事業撤退する際に直面する、特定技能外国人の在留資格の取扱い、関係者が負う具体的な法的義務、行政への報告義務、退職勧奨時の留意点、そして新たな受入れ先探しにおける実務的な課題と対応策について、網羅的に解説します。本記事が、特定技能外国人の雇用に携わる皆様にとって、有事の際の対応指針となることを願います。


企業倒産・事業撤退時の特定技能外国人の在留資格と生活への影響

企業の経営破綻や事業撤退により雇用が継続不可能となった場合、特定技能外国人の在留資格(特定技能)の活動要件を満たさなくなるため、原則として在留資格の変更や新たな就職先を探す必要が生じます。

特定技能の在留資格は、特定産業分野において特定の業務に従事することを前提としており、雇用関係の終了はその前提条件の喪失を意味します。この状況下では、特定技能外国人は、安定した生活基盤を失い、住居、生活費、母国への送金といった多岐にわたる問題に直面する可能性があります。受入企業には、この状況を深く理解し、最大限の配慮と支援を行う責任が求められます。

受入企業・監理団体・登録支援機関の「法的義務」詳細

企業が経営破綻や事業撤退に至る際、関係者には具体的な法的義務が発生します。それぞれの立場から負うべき義務を詳細に解説します。

(1) 受入企業(特定技能所属機関)の法的義務

事業撤退や倒産時であっても、受入企業は特定技能外国人に対して以下の法的義務を負います。これらの義務の不履行は、罰則の対象となる可能性があります。

  • 出入国管理及び難民認定法上の届出義務:
    • 雇用契約終了の届出: 特定技能外国人との雇用契約が終了した日から14日以内に出入国在留管理庁への届出が義務付けられています(出入国管理及び難民認定法第19条の17第1項第1号)。これは最も基本的な義務であり、速やかな履行が求められます。
    • 活動機関に関する届出(変更の届出): 企業名、所在地等の変更が生じた場合も届出が必要です。事業撤退に伴う関連情報の変更があれば、速やかに届け出る必要があります。
  • 労働基準法・労働契約法上の義務:
    • 解雇予告手当の支払い: 労働者を解雇する場合、原則として30日前までに解雇予告を行うか、または30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う義務があります(労働基準法第20条)。特定技能外国人についても日本人労働者と同様に適用されます。
    • 退職金の支払い: 就業規則に退職金規定が定められている場合は、その規定に基づき退職金を支払う義務があります。
    • 未払い賃金の支払い: 事業撤退に際し未払い賃金が発生しないよう、最終的な給与計算を正確に行い、速やかに支払う義務があります。
    • 離職票の交付: 雇用保険の被保険者であった場合、離職票を交付する義務があります。この書類は、特定技能外国人が再就職する上で不可欠なものです。
  • 社会保険・労働保険に関する義務:
  • 生活支援に関する努力義務(特定技能制度の趣旨):
    • 特定技能制度は、外国人が日本で安定して就労・生活できるよう、受入企業に様々な支援を求めています。事業撤退時においても、新たな受入れ先探しへの協力や情報提供など、可能な範囲での支援を行う努力義務があると考えられます。

(2) 監理団体(技能実習の場合)および登録支援機関の法的義務

特定技能外国人の支援計画の作成・実施を担う登録支援機関、および技能実習生の場合の監理団体も、企業の倒産・撤退時には重要な役割と義務を負います。

  • 登録支援機関の法的義務:
    • 支援計画の履行状況確認・報告: 企業が事業を継続できなくなった場合でも、登録支援機関は特定技能外国人の支援計画が適切に履行されているかを確認し、必要に応じて出入国在留管理庁に報告する義務があります。
    • 新たな受入れ先探しの支援: 特定技能制度の趣旨に基づき、登録支援機関は契約終了となった特定技能外国人が新たな受入れ先を見つけられるよう、積極的に情報提供やマッチング支援を行う努力義務があります。これは、特定技能外国人の在留資格の継続に直結するため、極めて重要な役割です。
    • 相談・情報提供: 特定技能外国人からの生活相談等に応じ、適切な情報提供を行う義務があります。
  • 監理団体(技能実習の場合)の法的義務:
    • 企業倒産時の届出義務: 監理団体は、実習実施者が倒産等により技能実習を継続できなくなった場合、その事実を外国人技能実習機構に届け出る義務があります。
    • 新たな実習実施者探しの支援: 技能実習生の継続的な実習を確保するため、新たな実習実施者を探し、移行支援を行う義務があります。

行政への報告義務:迅速かつ正確な対応の重要性

前述の出入国在留管理庁への届出義務に加え、関連する行政機関への迅速かつ正確な報告・連絡が不可欠です。

  • 出入国在留管理庁への届出:
    • 雇用契約終了の届出は最優先事項です。遅滞なく行いましょう。
    • 特定技能外国人が新たな受入れ先を見つけ、在留資格変更許可申請等を行う際には、出入国在留管理庁との連携が不可欠です。
  • ハローワークへの報告:
    • 労働者の解雇・離職に伴い、雇用保険の資格喪失手続などを行います。
  • 外国人技能実習機構(技能実習の場合)への報告:
    • 監理団体を通じて、企業側の事情により技能実習の継続が困難になった旨を報告します。
  • 関係省庁への相談:
    • 不明点が生じた場合は、出入国在留管理庁や厚生労働省の外国人雇用関係の窓口に速やかに相談することが推奨されます。正確な情報を得ることは、後のトラブルを回避する上で最も重要です。

退職勧奨時の留意点:慎重なコミュニケーションと法的遵守

企業が特定技能外国人に対して退職勧奨を行う場合、日本人従業員と同様、労働基準法や労働契約法に基づく適切な手続きに加え、言語や文化の違いを考慮した丁寧なコミュニケーションが不可欠です。

  • 不当な解雇の防止:
    • 解雇は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。事業撤退は解雇理由として明確ですが、手続きを怠ると不当解雇とみなされる可能性があります。
  • 十分な説明と理解の促進:
    • 事業撤退の理由、解雇の必要性、今後の手続き、そして外国人自身の選択肢(在留資格の変更、新たな就職先の探索、帰国支援など)について、特定技能外国人が理解できる言語で、丁寧に説明を実施してください。必要に応じて、登録支援機関や通訳を介した説明会の実施も検討すべきです。
    • 一方的な通告ではなく、外国人本人の意向も確認し、可能な限り寄り添う姿勢が求められます。
  • 生活への配慮:
    • 退職後の住居や生活費について、一時的な支援が可能か検討することも重要です。例えば、退職後も一定期間の社宅利用許可、当面の生活費の一部支給など、可能な範囲でのサポートを検討することで、トラブルを未然に防ぎ、信頼関係を維持することができます。
  • 新たな就職活動への協力:
    • ハローワークの情報提供、履歴書作成支援、面接練習への協力など、特定技能外国人が新たな就職先を見つけられるよう、積極的に支援を行いましょう。

新たな受入れ先探しにおける実務的課題と対応策

特定技能外国人が日本での在留継続を希望する場合、新たな受入れ先を見つけることが最重要課題となります。しかし、これにはいくつかの実務的な課題が存在します。

(1) 実務的な課題

  • 在留期間の制約: 在留資格の変更や新たな就職先探しには時間的制約があります。特定技能の在留期間中に新たな就職先を見つけ、速やかに在留資格変更許可申請を行う必要があります。
  • 情報不足: 特定技能外国人が自力で新たな求人情報を効率的に探すことは困難な場合があります。
  • ミスマッチ: 特定技能外国人のスキルや経験と、新たな求人との間にミスマッチが生じる可能性があります。
  • 住居の問題: 新たな就職先が見つかるまでの間、住居をどのように確保するかが問題となります。
  • 生活の不安: 不安定な状況下での生活は、外国人にとって大きな精神的負担となります。

(2) 対応策

  • 早期の情報共有と連携:
    • 企業: 事業撤退の意思決定が固まったら、速やかに特定技能外国人本人、登録支援機関、監理団体(技能実習の場合)に情報共有を行うべきです。これにより、関係者間での連携による迅速な対応が可能になります。
    • 登録支援機関/監理団体: 企業からの情報を受け次第、特定技能外国人への丁寧な説明と、今後の支援計画について協議を開始します。
  • 求人情報の提供とマッチング支援:
    • 登録支援機関: 既存のネットワークを活用し、特定技能外国人を受け入れる意欲のある企業情報を収集し、積極的にマッチング支援を行いましょう。
    • ハローワークの活用: 特定技能外国人もハローワークの利用が可能です。登録支援機関や企業が同行し、求職登録や求人検索をサポートすることが有効です。
    • 特定技能人材サービス企業の活用: 特定技能人材に特化した人材紹介会社やマッチングプラットフォームの活用も有効な選択肢です。
  • 在留資格に関する情報提供と申請サポート:
    • 登録支援機関: 在留資格変更許可申請や特定活動への変更など、具体的な在留資格の手続きについて、正確な情報を提供し、申請書類の準備などをサポートします。
    • 出入国在留管理庁への相談: 必要に応じて、出入国在留管理庁に直接相談し、個別ケースでの対応方針を確認することも有効です。
  • 生活支援の継続:
    • 企業: 可能な範囲で、一時的な住居提供や生活費の補助など、新たな就職先が見つかるまでの生活支援を検討すべきです。
    • 登録支援機関: 地域コミュニティやNPO法人などと連携し、特定技能外国人の生活支援に繋がる情報を提供しましょう。
  • キャリアプランの再構築支援:
    • 特定技能外国人が希望する職種だけでなく、他の分野への可能性も視野に入れ、キャリアプランの再構築を支援することも重要です。

結び:有事における特定技能外国人の「孤立防止」の重要性

企業の倒産や事業撤退は、特定技能外国人にとって計り知れない不安と困難をもたらします。しかし、本稿で詳述したように、受入企業、監理団体、登録支援機関、そして行政がそれぞれの役割と法的義務を認識し、連携して対応することで、特定技能外国人の日本での安定した生活と就労を継続させる可能性は十分に確保されます。

最も重要なのは、特定技能外国人を「孤立させない」ことです。彼らが情報を得られず、途方に暮れることのないよう、関係者が一体となり、正確な情報提供、具体的な支援、そして継続的な声がけを行うことが求められます。

特定技能制度は、単なる労働力確保の手段に留まるものではありません。日本社会の一員として、彼らが安心して働き、暮らせる環境を整えることは、私たち日本人と特定技能外国人との共生社会を築く上で不可欠な要素です。

本記事が、皆様の特定技能外国人の雇用管理、そして「もしもの時」に備える上での一助となることを改めて願います。