入管の「内部通報制度」とコンプライアンス強化:適正な外国人雇用に向けた企業・行政書士の責務

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出入国在留管理庁(以下、入管庁)が運用する「内部通報制度」は、不法滞在や不正な在留資格申請に関する情報を広く受け付ける仕組みとして、その重要性を増しています。この制度は、適正な出入国管理を実現するための重要なツールであると同時に、外国人雇用に関わる企業や行政書士に対し、一層のコンプライアンス強化を求めるものに他なりません。本稿では、入管庁の内部通報制度の運用実態、それが外国人材を受け入れる企業や行政書士に与える影響、そしてコンプライアンス強化のために企業が取り組むべき具体的な対策について掘り下げます。


内部通報制度の全容と運用実態

入管庁の内部通報制度は、入管法に違反する行為に関する情報を国民から広く収集することを目的としています。具体的には、不法滞在者や不法就労を斡旋するブローカー、偽装結婚や偽変造書類を用いた不正な在留資格申請に関する情報など、多岐にわたる通報を受け付けています。

通報は、入管庁のウェブサイト、電話、書面など複数の経路で受け付けられ、匿名での通報も可能です。通報が寄せられると、入管庁は内容の信憑性や具体性を精査し、必要に応じて事実関係の調査に着手します。この調査には、関係者への聞き取り、資料の確認、場合によっては立ち入り調査などが含まれます。

通報内容には、製造業や建設業、農業、飲食業など人手不足が深刻な分野における不法就労・不法滞在に関する情報が多く、特に技能実習生の失踪とそれに続く不法就労に関する通報が散見されます。また、偽装結婚や虚偽の会社設立による在留資格の不正取得、さらには技能実習生に対する人権侵害や賃金未払いといった技能実習制度の運用不適切さを指摘する通報も少なくありません。外国人からの不当な高額手数料徴収や不正な在留資格申請を指南する悪質なブローカー、行政書士に関する情報も通報の対象となっています。

通報内容が真実であると確認された場合、入管庁は通報内容に応じた措置を講じます。不法滞在者には退去強制手続、不法就労者については雇用主も入管法違反(不法就労助長罪など)に問われる可能性があります。不正な手段で取得された在留資格は取り消しの対象となり、申請者には退去強制命令が出されることがあります。不法就労を斡旋した企業やブローカーに対しては、刑事告発や行政指導が行われることもあり、企業名が公表される可能性もあります。不正な申請に関与した行政書士に対しては、行政書士法に基づき、業務停止や登録抹消といった懲戒処分が課される可能性があります。

企業・行政書士への影響とコンプライアンス強化策

入管庁の内部通報制度は、外国人雇用に関わる企業や行政書士に対し、直接的かつ間接的に大きな影響を与え、一層のコンプライアンス強化を求めています。

企業が直面するリスクと具体的な対策

企業にとって、内部通報制度は潜在的なコンプライアンスリスクを顕在化させるきっかけとなり得ます。不法滞在者の雇用や在留資格の不正申請に関与した場合、不法就労助長罪などの入管法違反に問われるリスクが高まり、罰金や懲役刑だけでなく、企業イメージの失墜、社会からの信頼喪失といった無形の損害も甚大です。また、適正な外国人雇用・管理を怠ったと判断された場合、入管庁から新たな外国人材の受入れ停止や、既存の在留資格の取り消し勧告など、事業運営に大きな影響を与える行政処分を受ける可能性があります。

これらのリスクを回避し、コンプライアンスを強化するためには、以下の対策が不可欠です。

  • 法令遵守体制の確立と周知徹底: 外国人雇用に関する法令(入管法、労働基準法など)を正確に理解し、遵守するための体制を確立します。外国人雇用担当者の育成、外国人雇用に関する社内規定の整備と多言語での周知、従業員への定期的な研修実施が求められます。また、外国人材を含む従業員が安心して不正行為やハラスメントを相談・通報できる社内窓口の設置と透明性の高い運用も重要です。
  • 在留資格管理の厳格化と適正な労働条件の確保: 雇用時だけでなく、定期的に在留カードの有効期限、在留資格、就労制限の有無などを確認し、常に最新の情報を把握します。在留期間更新許可申請を遅滞なく行い、オーバーステイを発生させないよう厳重に管理することも必須です。また、外国人材も日本人と同様に、労働基準法などの日本の労働法規が適用されます。最低賃金法を遵守し、日本人と同等以上の賃金を支払うこと、労働時間・休日管理の徹底、ハラスメント対策なども不可欠です。
  • 登録支援機関・監理団体との連携強化: 外国人雇用においては、外部の専門機関との連携が不可欠です。実績や専門性だけでなく、コンプライアンス意識の高い機関を選定し、密な情報共有と協力体制を構築することで、問題の早期発見と解決に繋げます。

行政書士に求められる倫理と責任

行政書士は、在留資格申請の専門家として、その専門知識と公正な判断が強く求められます。顧客からの依頼であっても、不正な在留資格申請に加担した場合、行政書士自身も入管法違反に問われる可能性があり、行政書士法に基づく懲戒処分(業務停止や登録抹消)の対象となりかねません。一度でも不正に関与したという情報が広まれば、行政書士としての信用は著しく失墜します。

行政書士には、以下の倫理と責任が求められます。

  • 職務の公正性と最新法令知識の習得: 依頼内容が法令に違反する疑いがある場合や、虚偽の申請であることが判明した場合は、毅然として受任を拒否する勇気が必要です。入管法や関連法規は頻繁に改正されるため、常に最新の知識を習得し、正確な情報を提供する義務があります。
  • 情報収集と照合の徹底: 依頼人から提供された情報や書類について、安易に鵜呑みにせず、必要に応じて裏付け調査を行うなど、真実性を確認する努力を怠らないことが求められます。

まとめ:外国人雇用における「あたりまえ」を問い直す

入管庁の内部通報制度は、外国人雇用に関わるすべてのステークホルダーに対し、改めてコンプライアンスの重要性を問いかけるものです。この制度は、単に摘発を目的とするだけでなく、企業や行政書士が自主的に法令遵守意識を高め、より適正で透明性の高い外国人雇用環境を構築するための「きっかけ」として捉えることができます。

外国人材は、日本の労働力不足を補い、経済社会の活性化に貢献する重要な存在です。彼らが安心して日本で働き、生活できる環境を整えることは、受け入れる側の企業や行政書士の責務であり、社会全体の利益にも繋がります。「これまでもこうしてきたから」「他社もやっているから」といった安易な姿勢は、今や通用しません。外国人雇用における「あたりまえ」とは何か、常に問い直し、より良い社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることを実践していく時期に来ています。

本稿が、貴社や貴事務所における外国人雇用に関するコンプライアンス体制の見直し、そしてさらなる強化の一助となれば幸いです。