特定技能制度は、日本の労働力不足を補う重要な役割を担っています。しかし、その運用にはまだ多くの課題が残されているのが現状です。今回、ラーメン店「三ツ矢堂製麺」で発覚した賃金天引き問題は、来日する外国人材が直面しうる厳しい現実を浮き彫りにしました。
何が問題だったのか?
この問題は、特定技能外国人としてミャンマーから来日した28歳の女性が、勤務先の「三ツ矢堂製麺」運営会社を相手取り、未払い賃金など約170万円の支払いを求めて東京地裁に提訴したことから明るみに出ました。
訴状によると、女性は月額約25万円の基本給と固定残業代が支給される契約でしたが、初任給が「0円」だったと主張しています。その理由として挙げられているのが、社宅の敷金・礼金や家電代などが、一方的に給与から差し引かれていたという点です。
これは、外国人労働者の生活を安定させるために設けられた特定技能制度の趣旨に反するだけでなく、労働基準法における「賃金全額払いの原則」に抵触する可能性が非常に高い問題です。企業側は、労働者の同意なしに賃金から一方的に費用を差し引くことは原則として禁じられています。
外国人材が直面する「見えないコスト」
今回のように、来日前の情報と実際の待遇が異なるケースは残念ながら少なくありません。特に、海外から来る外国人材にとって、日本の住宅事情や初期費用の相場を正確に把握することは困難です。そのため、企業側からの不透明な費用請求や一方的な天引きは、彼らを経済的に追い詰めるだけでなく、日本での生活への不安や不信感にも繋がります。
このような問題は、外国人材が安心して日本で働くための基盤を揺るがすだけでなく、結果として外国人材の定着を妨げ、日本の労働力不足をさらに深刻化させることにもなりかねません。
企業が守るべき外国人材受け入れの基本
この事例から、外国人材を受け入れる企業は、以下の点を改めて確認する必要があります。
- 賃金全額払いの原則の徹底: 労働基準法に基づき、賃金は原則として全額を労働者に支払わなければなりません。寮費や食費などを徴収する場合でも、事前に明確な合意形成と書面での契約が必要です。
- 透明性の高い契約: 雇用契約や住居契約は、外国人材が完全に理解できる言語で提示し、内容について丁寧に説明することが不可欠です。不明瞭な点や、一方的に不利になるような条項は避けるべきです。
- 初期費用の明確化と支援: 来日時の初期費用(航空券、住居の初期費用、生活必需品など)について、事前に詳細を伝え、必要に応じて金銭的な支援や相談窓口の設置を検討するなど、来日する外国人材が安心して新生活を始められるよう配慮しましょう。
- 適正な登録支援機関の選定: 登録支援機関は、外国人材の生活支援を担う重要な存在です。信頼できる機関を選び、外国人材が困ったときに相談できる体制を構築することが、企業の責任です。
外国人材が泣き寝入りしないために
もしあなたが特定技能外国人として日本で働き、不当な天引きや不当な待遇を受けていると感じたら、決して一人で抱え込まないでください。
- 勤務先の担当者や登録支援機関に相談する:まずは状況を伝え、説明を求めましょう。
- 労働基準監督署に相談する:不当な労働条件は労働基準法違反の可能性があります。最寄りの労働基準監督署に相談すれば、指導や助言を受けられます。
- 弁護士や支援団体に相談する:賃金問題など法的な解決が必要な場合は、外国人労働者の支援を行う弁護士やNPO団体に相談することを検討してください。多言語対応の相談窓口を設けている場合も多くあります。
まとめ:共生社会実現への道のり
今回の「三ツ矢堂製麺」のケースは氷山の一角かもしれません。日本の労働力不足を外国人材の力で補っていくためには、単に人を受け入れるだけでなく、彼らが安心して、そして公平に働ける環境を整備することが不可益です。
企業は法と倫理に基づいた適切な受け入れを、行政は外国人材が困ったときに寄り添える支援体制の強化を、そして私たち一人ひとりが多文化共生の意識を持つことが、真の意味での「外国人材が活躍できる日本」を築く上で不可欠です。