【ニュース解説】迫る2025年問題、介護現場の救世主となるか?特定最低賃金導入の可能性と外国人介護士の必要性

病院の廊下

2025年4月から、介護分野における訪問介護での外国人介護士の活用が認められる方向で調整が進んでいます。一方、石破茂首相は2025年3月17日の参院予算委員会で、介護などを担うエッセンシャルワーカーや成長産業分野での人材確保に向け、特定の産業に適用される「特定最低賃金」の導入を検討する考えを示しました。「賃金が上がっていかないと、この国の経済は持たないとの強い認識を持っている。政治主導できちんと判断したい」と述べ、介護現場の人手不足という喫緊の課題に対し、賃金引き上げという側面からのアプローチを示唆しました。

果たして、この特定最低賃金の導入は、深刻な介護士の人手不足を解消する切り札となるのでしょうか?本稿では、特定最低賃金の解説から、過去の導入事例、そして介護現場への影響を詳細に分析し、結論として、依然として外国人介護士の活用が不可欠となる理由を徹底解説します。


特定最低賃金とは?地域別最低賃金との違いを分かりやすく解説

まず、「特定最低賃金」とは一体何なのでしょうか。現在、日本には全国一律の最低賃金と、各都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」が存在します。これは、地域ごとの経済状況や物価水準を考慮したもので、例えば東京都と地方都市では最低賃金の額が異なります。

これに対し、「特定最低賃金」は、特定の産業に限定して適用される最低賃金制度です。連合(日本労働組合総連合会)の資料によると、これは「地域別最低賃金」よりも高い水準で、特定の産業の労使が必要と認めた場合に設定されます。目的は、他の産業よりも高い賃金を設定することで、その産業の魅力を高め、労働力を確保することにあります。特に、労働力人口の減少が進む現代の日本において、特定の分野で人材を確保するための重要な手段として考えられています。

つまり、もし介護分野に特定最低賃金が導入されれば、地域別最低賃金よりも高い賃金水準が介護士に保証される可能性が出てくるのです。

過去にはどんな分野で導入されてきた?特定最低賃金の歴史と現状

では、過去に日本で特定最低賃金が導入された事例はあるのでしょうか?連合の資料によれば、2025年1月現在、全国で223件の特定(産業別)最低賃金が存在しています。しかし、業種ごとに見てみると、残念ながら「地域別最低賃金」の水準を下回り、効力を失っているものも少なくありません。

具体的な業種としては、製造業(鉄鋼業、自動車部品製造業など)、建設業、繊維工業、港湾運送業などが挙げられます。これらの業種は、かつて日本の経済成長を牽引してきた基幹産業であり、労働者の確保が重要視されていました。特定最低賃金は、これらの産業で働く人々の賃金水準を一定以上に保ち、労働意欲を高める役割を担ってきたと言えるでしょう。

しかし、近年では産業構造の変化やグローバル競争の激化などにより、特定最低賃金の意義や効果が薄れてきている側面もあります。地域別最低賃金が年々引き上げられる中で、特定最低賃金が相対的に低くなり、その役割を果たせなくなっているケースも見られます。

今回の石破首相の発言は、このような状況を踏まえ、改めてエッセンシャルワーカーである介護士や、成長産業分野での人材確保のために、特定最低賃金の導入を検討するというものです。過去の事例を踏まえ、現代のニーズに合った形で制度設計ができるかが鍵となります。

特定最低賃金は介護士の人手不足解消の切り札となるか?メリットとデメリット

もし介護分野に特定最低賃金が導入されれば、介護士の人手不足解消にどのような影響を与えるのでしょうか?以下に、考えられるメリットとデメリットをまとめました。

メリット

  • 人材の確保と定着: 地域別最低賃金よりも高い賃金が保証されることで、これまで介護の仕事に興味を持ちながらも、賃金の低さを理由に躊躇していた人材が新たに参入する可能性があります。また、現在介護現場で働いている人材の離職を防ぎ、定着を促す効果も期待できます。
  • 介護の仕事の魅力向上: 賃金水準の向上は、介護の仕事に対する社会的な評価を高め、魅力的な職業としてのイメージを醸成する可能性があります。これにより、若年層や異業種からの転職希望者の増加も期待できるでしょう。
  • サービスの質の向上: 適切な賃金が支払われることで、介護士のモチベーションが向上し、より質の高い介護サービスの提供につながる可能性があります。

デメリット

  • 介護事業者の経営圧迫: 人件費の増加は、介護事業者の経営を圧迫する可能性があります。特に、中小規模の事業者や経営状況が厳しい事業者にとっては、大きな負担となることが懸念されます。
  • 介護サービスの利用料金上昇: 人件費の増加分が介護サービスの利用料金に転嫁される可能性があり、利用者やその家族の経済的な負担が増加する可能性があります。
  • 地域間格差の拡大: 特定最低賃金の額が地域によって異なる場合、介護士の賃金格差が拡大し、人材の偏在が生じる可能性があります。
  • 制度設計の難しさ: 介護の仕事は多岐にわたり、経験や資格によって業務内容や責任が異なります。特定最低賃金をどのように設定し、どのような範囲の労働者に適用するのかなど、制度設計が非常に難しいという課題があります。

このように、特定最低賃金の導入は、介護士の人手不足解消に一定の効果が期待できる一方で、介護事業者や利用者への影響、制度設計の難しさなど、多くの課題も抱えています。

外国人介護士の活用は依然として不可欠!特定技能制度の現状と課題

石破首相が特定最低賃金の導入を検討する考えを示した一方で、政府は2025年4月から訪問介護での外国人介護士の活用を認める方向で調整を進めています。これは、特定最低賃金の導入だけでは、深刻な人手不足を解消するには不十分であるという認識の表れと言えるでしょう。

現在、外国人介護士の受け入れは、主に「技能実習」と「特定技能」という制度を通じて行われています。「技能実習」は、開発途上国の若者が日本の技術や知識を習得し、母国での経済発展に役立てることを目的とした制度ですが、労働力不足を補う手段として利用されている現状も指摘されています。一方、「特定技能」は、深刻な労働力不足に対応するため、一定の技能を持つ外国人を即戦力として受け入れることを目的とした制度です。介護分野もこの特定技能の対象となっており、一定の日本語能力と介護の知識・技能を持つ外国人が日本で働くことが認められています。

今回の訪問介護での外国人介護士の活用拡大は、この特定技能制度の運用をさらに進めるものと考えられます。これまで、外国人介護士は主に特別養護老人ホームなどの施設で働くことが多かったのですが、今後は在宅での介護ニーズにも対応できるようになることが期待されます。

しかし、外国人介護士の受け入れには、言葉や文化の違い、日本の介護制度への理解不足など、様々な課題も存在します。外国人介護士が安心して日本で働き、質の高い介護サービスを提供するためには、日本語教育の強化、日本の介護制度や文化に関する研修の充実、多文化共生に向けた地域社会の理解促進などが不可欠となります。

結論:特定最低賃金は一助となるも、外国人介護士との両輪で人手不足解消を目指すべき

石破首相が提唱する特定最低賃金の導入は、介護士の賃金水準を引き上げ、人材の確保や定着を促す可能性を秘めています。しかし、その効果は制度設計や運用方法、介護事業者や利用者への影響など、多くの要素に左右されます。過去の事例を見ても、特定最低賃金だけで特定分野の人手不足を完全に解消できたとは言い難い現状があります。

一方、2025年4月からの訪問介護での外国人介護士の活用拡大は、喫緊の課題である介護現場の人手不足に対する直接的な解決策の一つとなり得ます。特に、高齢化が急速に進む日本において、外国人介護士の力は今後ますます重要になってくるでしょう。

結論として、介護士の人手不足という深刻な問題に対しては、特定最低賃金による賃金引き上げというアプローチと、外国人介護士の積極的な受け入れというアプローチを、両輪で進めていくことが最も現実的かつ効果的な解決策と言えるでしょう。

特定最低賃金の導入によって国内の人材確保を進めつつ、外国人介護士の力を借りることで、質の高い介護サービスを維持し、高齢者が安心して暮らせる社会の実現を目指していく必要があります。そのためには、外国人介護士が日本で働きやすい環境を整備するとともに、日本人介護士の待遇改善も継続的に行っていくことが不可欠です。

2025年問題まで残された時間はわずかです。政府、介護事業者、そして国民一人ひとりがこの問題に真剣に向き合い、具体的な対策を講じていくことが求められています。