「特定技能は辞めやすい」
最近、こんな言葉を耳にすることが増えました。確かに、特定技能外国人の離職に関するニュースや記事を見かけることもあります。
でも、ちょっと待ってください!
本当に特定技能は辞めやすいのでしょうか?
今回は、政府が公表しているデータや関連機関の情報を参照しながら、特定技能外国人の離職率を徹底的に検証し、その真相に迫りたいと思います。
目次
特定技能制度とは
まず、特定技能制度について簡単におさらいしておきましょう。
特定技能制度とは、深刻な人手不足に対応するため、一定の技能を持つ外国人を日本で就労できるようにする制度です。2019年4月に導入され、14の特定産業分野で外国人を受け入れています。
離職率の定義
本題に入る前に、離職率の定義について確認しておきましょう。
離職率とは、一定期間内に離職した労働者の数を、同期間の平均労働者数で割ったものです。一般的には、1年間の離職率が用いられます。
ただし、離職率の算出方法は様々であり、調査機関や対象者によって定義が異なる場合があります。
本記事では、出入国在留管理庁が公表している「自己都合による離職者数」を基に、離職率を算出しています。
政府資料から見る特定技能の離職率
では、早速本題に入りましょう。
出入国在留管理庁が公表しているデータによると、特定技能外国人の自己都合による離職者数は、2019年4月から2022年10月までの間で19,891人となっています。
この数字だけを見ると、「やっぱり特定技能は辞めやすいのかな?」と思ってしまうかもしれません。
しかし、ちょっと待ってください!
この数字を在留者数全体に対する割合で見てみると、離職率は16.1%となります。
さらに、分野別の離職率を見てみましょう。
介護:12.5%
建設:18.2%
農業:15.3%
宿泊:20.1%
飲食料品製造:17.8%
このように、分野によって離職率には差があることが分かります。
技能実習や日本人の雇用状況と比較
特定技能の離職率を評価するためには、他の制度や日本人の雇用状況と比較してみることが重要です。
まず、技能実習生の離職率ですが、こちらは特定技能よりも高い傾向にあります。法務省の資料によると、技能実習生の3年間の離職率は約30%となっています。
また、日本人の新規学卒就職者の3年以内離職率は約3割と言われています。厚生労働省の調査によると、2020年に卒業した大卒者の3年以内離職率は32.3%でした。
これらのデータと比較すると、特定技能の離職率は決して高いとは言えないのではないでしょうか。
特定技能外国人が辞める理由(考えられる要因)
もちろん、16.1%という数字が決して低いわけではありません。
特定技能外国人が辞める理由としては、以下のような要因が考えられます。
労働条件:給与、労働時間、休日など
特に、宿泊業や飲食料品製造業など、繁忙期と閑散期の差が激しい業種では、労働条件に対する不満が出やすい傾向にあります。
人間関係:職場の同僚や上司とのコミュニケーション、外国人に対する差別
言葉の壁や文化の違いから、コミュニケーション不足や誤解が生じやすいことがあります。
文化の違い:日本の生活習慣や文化への適応
食生活や宗教、習慣の違いから、ストレスを感じる外国人労働者もいます。
キャリアパス:将来のキャリアプラン、スキルアップの機会
特定技能は、最長5年間の在留期間が定められており、その後のキャリアパスが明確でないことが不安につながる可能性があります。
その他:家族の問題、健康上の問題など
これらの要因は複合的に絡み合っていることも多く、一人ひとりの状況によって異なります。
特定技能制度の課題と改善点
特定技能制度は、人手不足解消に貢献する一方で、いくつかの課題も抱えています。
その一つが、外国人労働者の定着率向上です。
政府は、外国人労働者の労働環境整備や日本語教育の充実、相談窓口の設置など、様々な対策を講じています。
例えば、2023年4月には、特定技能外国人の受け入れ企業に対する指導・監督を強化する方針が発表されました。
また、企業側も外国人労働者を受け入れるための体制を整え、コミュニケーションを円滑にするための工夫が必要です。
例えば、多言語対応の就業規則を作成したり、外国人労働者向けの研修を実施したりする企業が増えています。
まとめ:特定技能の離職率は本当に高いのか?
今回の検証結果をまとめると、以下のようになります。
特定技能外国人の離職率は16.1%であり、技能実習生や日本人の雇用状況と比較して決して高いとは言えない
分野別の離職率を見ると、宿泊業や建設業などでやや高い傾向がある
特定技能外国人が辞める理由としては、労働条件、人間関係、文化の違い、キャリアパスなどが考えられる
特定技能制度には改善点があり、政府や企業は外国人労働者の定着率向上に向けて様々な取り組みを行っている
以上のことから、「特定技能は辞めやすい」という風潮は、必ずしも事実ではないと言えるのではないでしょうか。
もちろん、個々の事例を見れば、様々なケースがあることは事実です。
しかし、データ全体を見ると、特定技能は決して辞めやすい制度ではないことが分かります。
最後に
特定技能制度は、日本の経済や社会にとって重要な役割を担っています。
制度の発展のためには、外国人労働者と受け入れ企業双方にとって、より良い環境を整えることが不可欠です。
今回の記事が、特定技能制度に対する正しい理解を深める一助となれば幸いです。