2026年のラマダン(断食月)が終わり、3月21日〜22日にはレバラン(断食明け大祭、イード・アル=フィトル)を迎えました。厚生労働省の「外国人雇用状況」(令和7年10月末)によると、インドネシア人労働者は22万8,118人と前年比34.6%増で急増中です。ムスリム(イスラム教徒)社員への宗教的配慮は、もはや「特別な対応」ではなく定着率を左右する労務設計の一環です。ラマダンを終えた今こそ振り返りたい実務上の配慮事項を、優先度の高い順に整理します。
目次
急増するムスリム労働者の現在地
令和7年(2025年)10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人と過去最多を更新しました。インドネシアは国籍別5位に浮上し、2年前の12万1,507人からほぼ倍増しています。日本政府は宗教別の労働者統計を公表していませんが、早稲田大学の店田廣文名誉教授らによる「滞日ムスリム調査プロジェクト」の2025年推計では、日本在住のムスリム人口は約42万人とされています。インドネシアは国民の約87%がイスラム教徒とされ、在日インドネシア人労働者の中にもムスリムが多いことを考えれば、職場での宗教的配慮は多くの企業にとって避けて通れない課題です。
最優先は「就業ルールの透明化」
ムスリム社員への対応で最も重要なのは、礼拝や断食に関する就業ルールを事前に明確化し、社内で共有することです。イスラム教では1日5回の礼拝(サラート)が義務とされ、日勤帯では1〜2回程度が勤務時間と重なるのが一般的で、1回あたり5〜10分程度です。法的には礼拝時間を無給の休憩として扱う整理も可能ですが、5〜10分の離席に賃金控除を適用すると、他の短時間離席との整合性が問われます。多くの企業では、既存の休憩時間の柔軟な運用や始業・終業時刻の微調整で吸収しています。就業規則で礼拝に関するルールを明文化し、本人と管理者が納得できる形にしておくことが肝要です。
ラマダン期間中は日の出から日没まで飲食を断つため、体力を使う現場での安全管理が問われます。企業の安全配慮義務の観点から、重作業を午前中に集中させる、小休憩を増やす、体調確認を頻繁に行うといった対策が求められます。
食事と礼拝環境 ― 低コストでも効果は大きい
ハラール(イスラム法上許容される飲食物)への対応は、認証取得まで踏み込む必要はありません。「ムスリムフレンドリー」と呼ばれる運用型のアプローチが実務的です。メニューに豚肉・アルコール由来調味料の使用有無を表示する、調理器具を分ける、本人にどこまでの対応が必要か確認する、といった対応が挙げられます。電子部品メーカーのヨコオは富岡工場で食材の保管場所分離や調理順管理まで行う先進事例です。中小企業であれば弁当持参を認め、電子レンジを別途用意するだけでも十分です。
礼拝スペースも、会議室や休憩室の空き時間を開放し、キブラ(メッカの方角)を示すシールを貼るだけで実用性は大きく向上します。IHIは礼拝室を設置し異文化研修も実施、気仙沼市の菅原工業は技能実習生のために祈祷所を地域に整備しています。
| 配慮項目 | まず取り組むべきこと | 余裕があれば |
| 礼拝 | 会議室・休憩室の空き時間開放、方角表示 | 専用礼拝室の設置、ウドゥー用水回りの整備 |
| 食事 | 原材料表示、豚肉・アルコール使用の明示 | ハラールメニューの提供、調理器具の分離 |
| 勤務 | 礼拝時間の休憩ルール明文化、断食中の体調確認 | フレックス制の導入、重作業の午前集中 |
| 休暇 | レバラン時期の早期申請ルール整備 | 代替シフトの事前計画、一時帰国支援 |
| 服装 | ヒジャブ着用の許可(安全基準との両立確認) | 安全帽対応型ヒジャブの調達 |
レバラン休暇と「選ばれる企業」への視点
レバランは多くのインドネシア人ムスリムにとって、家族と過ごす最も大切な祝祭です。2026年はレバラン前後の3月20日〜24日が連続休暇に設定されており、一時帰国を希望する社員も少なくありません。一律に休暇を禁止するのではなく、数か月前からの早期申請ルールを設け、代替要員の確保とセットで制度化する方が定着率の向上につながります。
インドネシア政府は今後5年間で日本へ25万人の労働者を派遣する目標を掲げていますが、韓国や台湾も受け入れを拡大しており、日本企業が「選ばれる側」であり続ける保証はありません。宗教的配慮の不備はSNSで共有されやすく、採用広報に影響する可能性があります。逆に、適切な対応を行う企業の評判は送り出し機関や候補者のコミュニティで好意的に広まります。
「特別扱い」ではなく「制度の透明化」を
現場からは「他の社員との公平性をどう保つか」という声が上がることもあります。ここで重要なのは、宗教配慮をフレックスタイムや中抜け休憩のような「柔軟な働き方の枠組み」に組み込む発想です。礼拝のための短時間離席も、育児や介護による時短勤務と同じく、制度として透明に運用されれば周囲の理解を得やすくなります。
イスラム教の信仰実践には個人差が大きく、礼拝の頻度や食事の制約は人によって異なります。入社時に本人の希望を丁寧に確認し、配属先の管理者と共有する仕組みを整えることが、最も実効性の高い「配慮」です。育成就労制度の本格施行でムスリム圏からの人材はさらに増える見通しです。ラマダンが終わった今こそ、今年の対応を振り返り、来年に向けた制度整備に着手する好機といえるでしょう。










