2027年4月に施行される育成就労制度では、従来の技能実習制度で原則禁止されていた「本人意向による転籍(転職)」が一定の条件のもとで認められます。出入国在留管理庁(入管庁)が示した分野別運用方針では、転籍制限期間を分野ごとに1年または2年と設定する案が提示され、受入れ企業にとっては人材流出リスクへの備えが急務となっています。制度の具体的な要件と、企業が取るべき定着策を整理します。
目次
技能実習から育成就労へ ── 転籍をめぐる制度転換
現行の技能実習制度では、技能実習生が自らの意思で職場を変える「転籍」は原則として認められていません。この仕組みは、実習先での人権侵害や劣悪な労働環境が表面化しにくい要因として国内外から批判を受けてきました。
こうした課題を受け、政府の有識者会議は技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設を提言しました。2024年6月に改正入管法が成立し、新制度では「やむを得ない事情による転籍」に加え、「本人意向による転籍」が制度として正式に位置づけられました。外国人労働者が自らの意思で、より良い労働環境やキャリアを求めて職場を変えることが可能になるという、大きな制度転換です。
本人意向の転籍 ── 5つの要件
本人の希望のみで転籍するには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。第一に、分野別運用方針で定められた転籍制限期間(1年以上2年以下)を超えて同一の受入れ機関で就労していること。第二に、技能検定試験基礎級または育成就労評価試験に合格していること。第三に、日本語能力試験N5相当以上に合格していること。第四に、転籍先の受入れ機関が「優良な育成就労実施者」の基準を満たしていること。第五に、ハローワーク等の公的機関を通じた転籍であることです。
なお、転籍先の機関には初期費用(渡航費・講習費など)の分担が求められるほか、在籍する育成就労外国人に占める転籍者の割合は原則3分の1以下とされています。都市圏の企業が地方(指定区域)から人材を受け入れる場合は6分の1以下と、さらに厳しい制限が設けられており、地方からの過度な人材流出を防ぐ仕組みが設計されています。
分野別の転籍制限期間 ── 8分野は「2年」
2026年1月に閣議決定された分野別運用方針では、17の育成就労産業分野について転籍制限期間が定められました。入管庁の案では、技能習得に時間を要する8分野で制限期間を「2年」、それ以外の9分野で「1年」としています。
| 転籍制限期間 | 対象分野 |
| 2年 | 介護、建設、工業製品製造業、造船・舶用工業、自動車整備、飲食料品製造業、外食業、資源循環 |
| 1年 | ビルクリーニング、リネンサプライ、宿泊、鉄道、物流倉庫、農業、漁業、林業、木材産業 |
転籍制限期間を2年とした分野には追加の義務が課されます。受入れ機関は、就労開始から1年経過時点で分野別協議会が公表する昇給率に基づき昇給を行わなければなりません。この仕組みは、制限期間の長い分野で外国人材が不当に低い待遇に据え置かれることを防ぐためのものです。なお、2年の制限を設けた分野であっても、受入れ機関の判断で1年に短縮することが認められています。
注目すべきは、この制度が単なる「転籍の解禁」ではなく、分野別の制限期間、優良実施者要件、転籍者割合制限、昇給義務といった複数の条件を組み合わせた「管理された流動化」である点です。完全な移動の自由ではないものの、従来の「原則禁止」とは根本的に異なり、企業間で外国人材を巡る競争が生まれる構造になっています。
企業が取るべき定着策 ── 「選ばれる職場」への転換
転籍が制度化されることで、企業は「外国人材から選ばれる職場」になる必要があります。定着策として以下の取り組みが有効と考えられます。
| 分類 | 具体策 |
| 待遇改善 | 昇給制度の明確化、賞与・手当の整備、住居環境の改善 |
| キャリアパス | 特定技能1号への移行支援、技能検定3級の取得支援、職位・役割の段階的な拡大 |
| 日本語教育 | 日本語学習の費用補助・時間確保、N4・N3取得への支援 |
| 生活支援 | 相談窓口の設置、母語対応、地域コミュニティとの接点づくり |
とりわけ重要なのは、キャリアパスの可視化です。育成就労(最長3年)から特定技能1号への移行には、技能検定3級等と日本語能力N4相当の合格が必要です。受入れ機関が試験対策や学習環境を整えることで、外国人材は「この職場で働き続ければ成長できる」と実感でき、転籍の動機が低下します。逆に、こうした支援体制を持つ企業は「優良実施者」として認定されやすくなり、転籍先としても選ばれる好循環が生まれます。
制度施行に向けて ── 今から始める準備
厚生労働省の「外国人雇用状況」によれば、2025年10月末時点の外国人労働者数は約257万人で過去最多を更新しました。技能実習生は約50万人、特定技能は約33万人に達しています。育成就労制度のもとでは、これらの外国人材がより主体的に職場を選択できるようになります。
企業に求められるのは、転籍を「脅威」ではなく「制度の健全化」と捉える視点です。適切な待遇とキャリア支援を提供する企業には、転籍制度を通じて優秀な人材が集まる可能性もあります。施行まで約1年となった今、就業規則の見直し、昇給制度の整備、日本語教育体制の構築など、できることから着手することが重要です。人材を「囲い込む」のではなく「選ばれる」企業へ。その転換が、育成就労時代の外国人材戦略の核となります。










