「介護はOK、ITはNG」の外国人政策が招く産業の二極化

ITエンジニア


日本のGDP成長を阻む「ハイブリッド労働力」の拒絶という構造的失策

深刻な人手不足が叫ばれる日本において、外国人労働者の受け入れは国家戦略の核心です。しかし、現在の日本の外国人雇用政策は、「労働力」を供給する分野と、「イノベーション」を牽引する分野とで、極端なアンバランスを抱えています。

この政策が生み出すのは、低付加価値産業の延命と高付加価値産業の停滞という、危険な「産業の二極化」です。このアンバランスこそが、日本の構造的な低成長、ひいてはGDPの伸び悩みを決定づけている最大の要因ではないでしょうか。

【量への過度な依存】「OK」政策が支える低付加価値部門

現在の外国人雇用政策の中心は、特定技能(SSW)や育成就労といった制度を通じた、主に人手不足が深刻な特定分野への労働力供給です。これは、日本の社会インフラの維持を目的とした「OK」政策です。

  • 介護・物流への傾倒: 介護(有効求人倍率4.08倍)や運送業(トラック運転手)への外国人材の投入は、サービス供給の継続という点で喫緊のニーズを満たします。
  • 「生産性の低い労働」の維持: これらの分野への大量投入は、確かに現場の崩壊を防ぎます。しかし、同時に生産性の向上を伴わない労働集約型のビジネスモデルを温存させてしまいます。つまり、外国人材の力で既存の低生産性構造を維持しているに過ぎません。

この「OK」政策は、短期的な社会の混乱を防ぐ「止血」にはなりますが、国の長期的な付加価値生産性を高めることには繋がりにくい構造を内包しています。

【質への閉鎖性】「NG」政策が遠ざける高付加価値部門

一方で、日本の政策は、高付加価値を生み出すIT、研究開発、フィンテック、先端製造業といった分野のグローバル人材の誘致に対して、極めて消極的で煩雑です。

  • 「高度人材」制度の競争力不足: 日本の「高度専門職ビザ」は存在するものの、世界的に見ると、カナダ、オーストラリア、EU諸国が提供する「グリーンカード(永住権)直結型」の誘致策と比べ、スピード感、家族の生活インフラ、キャリアパスの明確さで劣っています。
  • ハイブリッド労働力の欠如: 日本が本当に必要としているのは、現場の作業員とそれを革新するIT技術者がタッグを組む「ハイブリッド労働力」です。例えば、介護現場のDX化には、「介護技術を理解した上でAIを開発・導入できる外国人ITエンジニア」が不可欠ですが、現状の制度はこの種の横断的な人材を惹きつける仕組みになっていません。

優秀なグローバル人材は、日本で働くことのメリットを、賃金(円安で相対的低下)やキャリアパスの観点から他国と比較しています。高市政権下で在留管理が厳格化される空気も相まって、彼らは「日本は低技能労働者は受け入れるが、自分たちの知性は必要としていない」というメッセージを受け取りかねません。

政策アンバランスが招く「GDP押し下げ効果」

「介護はOK、ITはNG」という政策のアンバランスは、日本の産業構造に決定的な歪みを生み、結果として国家全体のGDP成長を阻害します。

① 低生産性産業の「固定化」

外国人労働力の供給が、生産性の低い業種(介護、物流など)の労働コストを相対的に低く抑える作用をもたらします。これにより、企業はDXやロボティクスへの大規模投資のインセンティブを失い、労働集約型の経営に安住してしまいます。これは、「低い生産性」を国家ぐるみで固定化しているのと同じです。

② イノベーションの「鎖国状態」

ITや先端技術分野の優秀な人材を誘致できないことは、日本のイノベーション率を直撃します。国内にハイレベルな競合や刺激が不足し、国内企業が世界標準から遅れる要因となります。高付加価値を生む成長エンジン(IT、AI)がストップすれば、GDPは構造的に伸びません。

③ 「労働力のコモディティ化」

外国人材を、単に人手不足の解消という「コスト」として捉え、「人件費を抑えるための労働力」として大量に導入し続ける限り、日本は国際社会で「低賃金労働者を消耗する国」というブランドを確立してしまいます。これは、高所得・高付加価値を生む人材を惹きつける上で、致命的なイメージダウンとなります。

求められる「ハイブリッド労働力」を前提とした政策転換

日本の産業界が真に唸るべきは、外国人材の量的な確保と、質的な高度化を同時に追求することです。

真の成長戦略は、「ハイブリッド労働力」の導入にあります。すなわち、

  1. IT・高度人材の誘致の超スピード化: 高度専門職ビザを、「申請後1ヶ月以内の決定」「永住権への最短パス」「家族への手厚い教育環境保証」を盛り込んだ世界最高水準の制度へと再設計し、優秀なIT人材を国策として奪いに行く。
  2. 特定技能分野のDXを義務化: 介護や物流といった特定技能分野に対し、「外国人労働者を受け入れるなら、同時に生産性向上のためのDX投資を義務付ける」といった規制を導入し、現場の生産性向上を強制する。

「介護はOK、ITはNG」という政策は、日本を「介護を続ける低成長国」に留めるリスクを抱えています。日本の産業構造を転換し、国際競争力を取り戻すためには、労働力を輸入する政策から、イノベーションを輸入する政策への、大胆な舵取りが不可欠です。