「日本は給料が伸びにくい」「円安で貯金が目減りする」。外国人社員から、こうした声が聞こえる場面は珍しくありません。採用競争が激しくなるなか、企業側ができる支援の一つとして注目されるのが、日本の制度を使った資産形成の基礎情報を、正確に共有することです。
2024年に制度が拡充された新NISAは、投資による利益にかかる税負担を軽減する仕組みとして普及が進んでいます。外国人社員に対しても、制度の「使える・使えない」を含め、誤解のない説明を行うことは、生活設計の不安を和らげる一助になります。
目次
外国人も新NISA口座は開設できるか
結論から言えば、国籍そのものは要件ではなく、日本の税制上の取扱いとして「居住者」等の条件を満たすかがポイントです。つまり、条件を満たせば外国人も新NISA口座を開設できます。金融庁の資料でも、NISA口座を開設できる人の範囲が整理されています。
新NISAの「開設可否」を左右する代表的な要件
| 確認ポイント | 原則(概要) | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 居住区分 | 居住者等が対象(条件あり) | 「居住者」かどうかは税務上の概念。 |
| 年齢 | 口座開設年の1月1日時点で18歳以上 | 金融機関によって年齢確認の運用説明が丁寧に示されています。 |
| 口座数 | NISA口座は原則1人1口座 | 年単位で金融機関を変更できる仕組みなど、運用ルールがあります。 |
| 本人確認・マイナンバー | 口座開設時に本人確認+番号確認が必要 | 外国籍の場合、在留カード等を求める金融機関が一般的です。 |
なぜ「資産形成の情報提供」が定着支援になり得るのか
企業ができるのは、投資を勧めることではなく、制度を正しく理解するための“入口”を整えることです。そこに価値が生まれます。
- 生活の見通しが立つ
税金・年金・口座開設の基本が整理されると、「毎月いくら残せるか」「いつ帰国するか」といった判断材料が増えます。結果として転職・転籍の意思決定が”感情”だけで動きにくくなります。 - 不確かな情報に振り回されにくくなる
SNS等では、制度が誤って伝わることもあります。企業が公的情報の所在を示し、必要なら通訳を介して説明するだけでも、社員側の不安は下がります。 - 「福利厚生の質」として認識されやすい
住居、医療、教育と同様、金融面の不安は定着に直結します。制度の説明会や相談導線を用意することは、職場の支援姿勢を示すサインになります。
企業が取り組む場合の進め方 ー 「やり過ぎない」がコツ
資産形成の支援は有用ですが、企業が個別に商品を勧め始めると、トラブルの火種にもなります。現実的には、次のような設計が無理がありません。
| 企業側の施策 | ねらい | 注意点 |
|---|---|---|
| 公的情報に基づく 制度説明会 | 誤解を減らし、選択肢を増やす | 金融庁・国税庁など一次情報の提示を基本にします。 |
| 口座開設の事務サポート (書類・画面操作) | 手続きの壁を下げる | 本人確認・番号確認など必要書類の案内に徹し、投資判断には踏み込みません。 |
| 退職・帰国・海外転勤時 の注意喚起 | “知らずに損する”を防ぐ | 金融庁資料でも、出国時の取扱いは条件・金融機関差がある旨が示されています。 |
特に「帰国・出国時」については、制度上の手続きや扱いがケースで変わり得ます。金融庁は、一時的な出国の場合に一定条件で非課税を維持できる可能性がある一方、取扱いの有無は金融機関によって異なる点も明示しています(金融庁資料)。
おわりに
外国人社員の定着を左右するのは、賃金だけではありません。住まい、医療、行政手続き、そして将来の見通し——生活の土台が整うほど、働き続ける選択が現実味を帯びます。新NISAはその一部に過ぎませんが、「制度を知らないことで損をする」「不確かな噂で不安になる」といった状況を減らすうえで、企業が関与できる余地はあります。
重要なのは、企業が“投資をさせる”のではなく、公的情報に基づいて、制度を理解する機会を提供することです。通訳を介した説明会、必要書類の案内、出国時の注意喚起など、やるべきことは地味ですが、現場の安心感を確実に積み上げます。
採用環境が厳しさを増すなかで、こうした支援は「特別な施策」ではなく、働く人を生活者として扱うための基礎インフラになりつつあります。制度の正確な理解と、過不足のない支援設計——その積み重ねが、企業にとっても「選ばれ続ける職場」への近道になるはずです。










