介護人材不足を前に、日米の「移民政策」と「賃金」はどう動くか―日本は受け入れ拡大、米国は規制強化の局面で

青空を背景にはためくアメリカ国旗

高齢化の進行により、介護・ケア分野の人材確保は日本だけでなく米国でも大きな課題になっています。両国は同じ課題に直面しながら、政策の方向性は対照的です。日本は外国人材の受け入れ拡大を進める一方、米国では移民規制や強制送還の強化が続き、ケア労働市場にも影響が及ぶ可能性があります。

もっとも、議論には注意が必要です。米国で「介護時給が一律に数十ドルへ跳ね上がっている」といった言い方は、統計上の一般像を正確に反映しません。たとえば米労働統計局(BLS)によれば、在宅ケアを含む「Home Health and Personal Care Aides」の中央値賃金は2024年時点で年3万4,900ドルで、時給換算ではおおむね10ドル台後半が中心です。
一方で、家庭が事業者に支払う在宅介護サービスの料金は地域差が大きく、保険制度や供給不足の影響も受けます。この「利用料金」と「労働者賃金」を混同しないことが前提になります。


米国:移民規制の強化が、ケア労働市場に波及する可能性

米国では、移民政策をめぐる規制強化や執行の厳格化が続いています。報道機関や研究機関は、強制送還や国内取締りの強化が、移民に支えられる産業に波及しうると指摘しています。
ケア領域はその代表例です。KFF(Kaiser Family Foundation)の分析では、長期ケアの直接ケア労働者に占める移民の比率は全体で28%、とりわけ在宅ケアでは約3人に1人(32%)とされています。

このため、移民の流入が細ったり、就労継続が不安定になったりすれば、現場の人手不足は一段と深まり、サービス提供が細るリスクが高まります。実際、米国の在宅介護をめぐっては、低賃金・高離職に加え、政策環境も含めた複合要因で「危機が深まっている」とする報道も出ています。


日本:制度維持と人材確保の両立が難題に

日本の介護は公的保険制度の枠組みの中で運営され、賃金や価格を市場任せにしにくい構造があります。その一方で、現場の人材不足は深刻で、介護の担い手確保は中長期の課題になっています。

こうした中で日本は、外国人材の受け入れを拡大しつつ、技術導入で現場負担を軽減する方向を模索しています。介護現場の人手不足に対応するため、AI・ロボット活用が進むという報道もあります。
また、政府は複数の在留制度を通じた受け入れ規模を中期的に示しており、労働力確保策の一つとして位置づけていることがうかがえます。


観点日本 🇯🇵米国 🇺🇸
人材確保の方向性外国人材の受け入れを制度的に拡大移民規制を優先し流入は抑制
価格・賃金の調整国が報酬を管理市場原理に委ねる
移民・外国人政策労働力確保を重視国境管理・国内雇用保護を重視
人材不足への対応共生・定着と省力化賃金上昇・サービス価格上昇
想定される課題定着支援と現場負担介護費用の高騰と格差


真逆の戦略というより、両国とも“持続可能性”の設計が問われる

日米を「共生か排除か」という二項対立でまとめると、状況の理解を誤りやすくなります。米国でも移民規制の議論は雇用、財政、治安、政治対立など複数の論点が絡み、ケア人材だけで政策が決まっているわけではありません。日本でも受け入れ拡大には地域社会の受け皿、教育、住居、労務管理などの課題が伴います。

ただ、ケア分野に限ってみれば共通点もあります。ケア労働は低賃金・高負荷になりやすく、人材の確保・定着が難しいという構造的問題です。米国ではBLS統計でも賃金水準が高い職種ではなく、雇用拡大が見込まれる一方で「低賃金」がボトルネックになっています。
日本も同様に、制度の持続可能性と現場の待遇改善をどう両立させるかが避けられません。


日本の介護経営にとっての論点:賃金ではない「価値」で勝負できるか

米国の規制強化が進むとしても、「米国の介護が一律に高給化し、世界中の人材が米国へ流れる」と断定するのは早計です。賃金統計はそこまで急激な一律上昇を示していません。
とはいえ、国際的な人材獲得競争という観点では、日本が「低賃金でも来るはず」という前提で制度を設計する時代ではなくなっています。

日本側が取れる選択肢は、賃金だけの競争ではありません。たとえば、教育・資格取得支援、キャリアパスの透明化、生活支援、言語・安全管理の仕組み化など、「働き続けやすさ」を価値として示せるかどうかが問われます。加えて、介護ロボットなど省力化投資を通じて、現場の身体的負荷を下げ、離職を抑えることも経営課題になっていくでしょう。