ハラール認証はなぜ増えた?マークの裏側にある文化とビジネスチャンス

ハラールの食事


ムスリム圏の特定技能人材増加が促す「食のバリアフリー」と市場開拓

近年、日本の外食産業や食品製造業の現場で、インドネシアやマレーシアといったムスリム圏(イスラム教徒の多い地域)出身の特定技能外国人材の雇用が急増しています。これに伴い、食材や調理法がイスラム法に則っていることを証明する「ハラール認証」を受けた食品や飲食店が増加しています。

この変化は、単なる異文化への配慮に留まらず、外国人社員の定着率向上と、新たな市場開拓という二重のメリットをもたらしています。


ハラールとは何か? — 食の背景にある文化

ハラール(Halal)とは、アラビア語で「許されたもの」「合法なもの」を意味し、イスラム教の戒律(イスラム法)によって定められた規範です。特に食においては、ムスリムが飲食を許されている食品や行為を指します。

項目ハラールの基本原則NGなもの(ハラーム:Haram)
肉類許された動物を、所定の方法で処理(屠畜)したもの。豚肉、アルコール、イスラム法に則って処理されていない肉(血抜きが不十分なものなど)。
調理ハラームな食材や器具と混ざっていないこと。豚肉やアルコールに触れた調理器具やまな板の使用。

🚨 企業が知っておくべき「見えない壁」

ムスリムの社員にとって、ハラールではない食品(特に豚肉やアルコールを含むもの)を摂取することは、単なる「好き嫌い」ではなく、信仰に関わる絶対的な禁忌(きんき)です。社員食堂や提供する弁当に、豚由来の調味料やエキスが使われていないかといった、見えない部分への配慮が求められます。


特定技能人材の増加が「ハラール配慮」を加速

外食業や飲食料品製造業で、ムスリム圏からの特定技能人材の受け入れが進んだことが、ハラール配慮のニーズを企業内で高めています。

① 社員食堂・福利厚生の課題

ムスリム社員が増えると、社員食堂のメニューや休憩中の飲食物の提供方法を根本的に見直す必要が生じます。

  • 【工夫例】 豚肉を使用しない「ハラール対応メニュー」を定番化する。調理器具や食器を、ハラームな食材と完全に分け(ゾーニング)、表示を徹底する。
  • 【効果】 食事の不安が解消されることは、外国人社員の職場への満足度と定着率を向上させる最も効果的な支援となります。

② 地方での生活支援

ムスリム社員が地方の受け入れ企業で働く場合、近隣にハラール食材店やハラール対応の飲食店がないことが大きなストレスとなります。企業が、ハラール食材の購入ルート(オンライン含む)の確保を支援することは、義務的支援以上の意味を持ちます。


「ハラール認証」がもたらすビジネスチャンス

ハラール認証の取得やハラール対応メニューの導入は、コストではなく、新たな市場を開拓する絶好のビジネスチャンスとなります。

(1) インバウンド市場への貢献

日本を訪れる外国人観光客のうち、東南アジア(インドネシア、マレーシアなど)からのムスリム旅行者は看過できない割合を占めます。

  • ハラール認証を取得した飲食店は、旅行者にとって「安心して食事ができる場所」として認識され、競争力の高い差別化要因となります。これは、観光立国を目指す日本経済にとってもプラスの影響です。

(2) グローバルなサプライチェーンへの参入

食品製造業がハラール認証を取得することで、ムスリム人口の多い国々(中東、東南アジア)への輸出市場が大きく開かれます。日本の高い衛生基準と組み合わせることで、「ハラールジャパンブランド」として国際市場での信頼性を高めることができます。

(3) 多様な社員が働きやすい企業文化の醸成

食の多様性を受け入れる姿勢は、ムスリム社員だけでなく、菜食主義(ベジタリアン)や食物アレルギーを持つ社員など、あらゆる食の制限を持つ人々への配慮に繋がります。

「ハラール認証」は、単なる宗教的義務ではなく、外国人材の雇用拡大を機に、企業がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進し、新たな顧客層と優秀な人材を惹きつけるための、強力な戦略ツールとなっているのです。