年の瀬を迎え、企業では恒例の忘年会シーズンがやってきた。一年の労をねぎらい、親睦を深める場として、多くの日本人社員にとってこの催しは欠かせないものだろう。しかし、近年、特定技能ビザをはじめとする在留資格により外国人材の雇用が急増する中で、日本の伝統的な「飲みニケーション」の場である忘年会は、彼らにとって必ずしも歓迎すべきイベントではないという現実を、私たちは直視する必要がある。
飲酒・食事:文化と信仰の壁
まず、最も分かりやすいのが、宗教的・文化的な背景による制約だ。
イスラム教徒や、その他の宗教的信条を持つ社員にとって、飲酒は厳しく禁じられている場合がある。にもかかわらず、日本の忘年会では「とりあえずビール」から始まり、上司や同僚から飲酒を強く勧められる風潮が依然として根強い。これは、彼らの信仰や尊厳を軽んじる行為に他ならない。
また、食事についても、イスラム教徒のハラール(許されたもの)、ヒンドゥー教徒の牛肉を避ける習慣、ベジタリアンなど、多様なニーズが存在する。日本企業の忘年会で提供されるコース料理は、こうした多様性をほとんど考慮していないのが実情ではないだろうか。
割分担:慣習の押し付け
さらに深刻なのは、日本の企業社会に根付く暗黙の慣習の押し付けである。
「若手がお酌をする」「女性社員が上司の席の世話をする」といった役割分担は、日本の旧態依然とした会社組織のあり方を象徴している。これらの慣習は、性別や年齢による差別的な役割固定であり、国際的な視点から見れば時代錯誤と言わざるを得ない。外国人社員は、自国の文化には存在しないこうした慣習を強いられることで、疎外感や精神的な負担を感じている可能性がある。
また、彼らにとっては、日本語での会話のスピードや、日本特有の「建前」や「忖度」の文化が交錯する場は、ただでさえハードルが高い。そのような中で、仕事とは関係のない慣習まで強いられることは、働く意欲を削ぐ原因ともなりかねない。
求められる意識改革:真のダイバーシティへ
外国人材の確保は、少子高齢化が進む日本社会において、もはや不可避な企業の責務となっている。彼らを単なる「人手」としてではなく、貴重な戦力として定着させるためには、彼らが真に働きやすい環境を整備することが不可欠だ。
忘年会という「公の場」に近い私的なイベント一つをとっても、企業側は以下の点を注意深く見直すべきだ。
- 参加の任意化の徹底: 参加を事実上強制したり、不参加者に不利益な評価を下したりするような雰囲気は直ちに排すべきである。
- 多様な選択肢の提供: 飲酒を伴わない昼食会や、宗教上の制約に対応した食事を用意するなど、インクルーシブな配慮を徹底すること。
- 慣習の撤廃と啓発: 「お酌」「席の世話」といった旧態依然とした慣習は撤廃し、全社員に対し、多様な文化的背景を持つ人々への相互理解を深める研修を行うこと。
共存社会へ向けて
外国人雇用が今後も増加していくことは確実だ。私たちは、自国の文化や慣習が「世界的・普遍的」なものであるという誤った認識を捨て、異文化への敬意と配慮を企業活動の基盤に据えなければならない。忘年会を巡る課題は、企業文化や組織風土の国際的な適合性を問う試金石と言える。
外国人材が持つ知識や技術、そして彼らがもたらす新しい視点は、日本企業にイノベーションを起こす可能性を秘めている。彼らがその能力を最大限に発揮できるよう、すべての社員が心理的安全性を感じられる職場環境を築くことが、今、日本企業に求められている喫緊の課題である。










